今回のブログは医局が担当しました。

カナーとアスペルガー

児童精神科医カナー

自閉症を最初に報告したのはアメリカの児童精神科医カナーであり、それが1943年の出来事(Nervous Child. 1943;2:217-250)。翌年には“早期幼児自閉症 early infantile autism”と命名しました。彼は「自閉症は他者との関係性における障害があり、それは生来的(先天的)なものなのですよ」と述べ、自閉的孤立と同一性への固執の2つを特徴としてあげました(最初から“生来的”と述べられていることに注目)。

小児科医アスペルガー

そして、オーストリアの小児科医アスペルガーが、カナーの報告の翌年に“小児期の自閉性精神病質 Autistischen Psychopathen im Kindesalter”を報告し、その中で、周囲に対する生きた繋がりの障害が本質的な異常であることを指摘しています(Arch Psychiatr Nervenkr. 1944;117:76-136)。

カナーとアスペルガーの違いと“自閉”

両者の違いですが、カナーが見ていたのは対人反応性の非常によろしくない自閉症が多く、アスペルガーが見ていたのは、対人反応性が割合あるタイプであったということ(この対人反応性は、いわゆる定型発達から見た対人反応性、ですね)。ここで注目したいのは、どちらも“自閉”という言葉を用いている点。この“自閉(Autismus)”は、ブロイラーが精神分裂病群における4つのAのひとつとして挙げたもの。カナーがブロイラーの自閉を援用したのは、そこには自閉症を精神分裂病群のひとつという可能性を(全肯定と言わないまでも)残しておいたのだろうという想像がつきます(アスペルガーはきちんとブロイラーの自閉とは異なることを明記していたのですが、彼の報告は英語圏において長く日の目を見ることはありませんでした)。さらに、1949年の報告(Am J Orthopsychiatry. 1949 Jul;19(3):416-26.)では、彼自身が「早期幼児自閉症は、児童精神分裂病の症状の最も早い出現とみてよいかもしれない」と、断定を避けながらも述べています。では、この“自閉”とはそもそも何なのか、そして精神分裂病群(統合失調症)との異同はどうなのか。それを次回はお話ししたいと思います。