自殺予防としてのうつ病治療

今回のblogは医局の担当です。

自殺の背景としてのうつ病

新型コロナウィルスが流行した2020年には、報道されたように自殺者数(特に女性や若年者)が増加しています。警察庁の統計によると、自殺の原因の半数近くが健康問題となっており、その中でもうつ病の割合がもっとも大きいとされています。新型コロナウィルス感染そのものの恐怖に加え、経済的な不安などのストレスが長期間持続したことが誘因となっていると考えられます。また、在宅で過ごすことが増え、家庭での役割が特定の人に集中したり、他者とコミュニケーションを取ることでストレスを発散することが難しくなったりしていることも関係しているかもしれません。

自殺に至るまでの希死念慮の変化

死にたい気持ちのことを希死念慮と言いますが、希死念慮とひとくくりに言っても段階があり、その程度よって対応方法が変わります。一例として下記のような1から6の段階を経て、希死念慮が悪化します。

1.苦しみから逃げ出したい
2.いっそ事故にでも遭って死んでもいい
3.毎日消えたい、死にたいと考える
4.インターネットなどで死に方を調べる
5.ロープなどを用意したり、ビルに上ったりする
6.自殺未遂、自殺既遂

1~3段階までは自分を傷つけないと約束できるなら多少の時間的猶予はありますが、具体的な方法を考え始める4~6段階では、入院を前提に早急に医療機関を探す必要があります。

うつ病の希死念慮の扱い方

死にたいという気持ちを打ち明けられても、どう反応したらよいかと途方に暮れる人も多いでしょう。「そんな話をしないでくれ」と拒絶的な態度を取ってしまう人もいるかもしれません。しかし、うつ病の人はものの見方が否定的になっているため、そのように対応されると「助けがない」と思い込み、一人で抱え込むことになってしまいます。ではどうすればよいかというと、率直に「死なないでほしい」と伝えると同時に「死にたいほどつらい気持ちは遠慮なく話してほしい」「思い詰めるよりも愚痴をこぼしてくれたほうがありがたい」といった内容を伝えるのがよいでしょう。「死んではいけない」という伝え方だとますます自分を責めるようになり、苦しめることになってしまいます。切羽詰まった状況なら「あなたが自殺したら私は一生自分を責め続けることになる」とまで伝えてもよいと思います。うつ病は治る病気ですが、治療には数週間から数か月の時間がかかります。したがって周囲が焦ってもいっぺんにすべてを解決することはできません。優先順位を付けて今できることを1つずつ行っていく必要があります。