今回のブログは医局が担当します。
メンタライジングについて:その4
前回ご紹介したように、非機能的なモードには“心的等価モード”と“ふりをするモード/ごっこモード/プリテンドモード”と“目的論的モード”があるのでした。MBTは、これらの非機能的なモードを患者さんの中に見つけて、“メンタライジング・モード”に移行させる方法です。ポリヴェーガル理論で考えると、腹側迷走神経がきちんと働いている状態に持っていく、と言えるかもしれません。それには、自分と他者の感情やものの見方は唯一絶対のものでなく、複数の可能性があるのだと立ち止まれるようになってもらうことが大切。繰り返しになりますが、「正しい知識を持つ治療者が患者さんを導く」のでは決してありません。種々の見方があることを確かめて、患者さんと協力してそれを探していくことが求められます。治療者に対して患者さんがアタッチメントを形成できるように、そして治療者が“安全な避難所”や“安心の基地”として働くように、関係を築いていきます。
これまで見てきたように、MBTは特殊な技能ではありません。サイコセラピーや日常生活の中にも息づくもの、と言えるでしょう。例えば認知行動療法の“認知再構成法”も、やりようによってはこのメンタライジングととても似てくるように思います。クライエント中心療法を開発したロジャースによる“共感”も「クライエントの私的世界を、あたかも自分自身の私的世界であるかのように感じ取ること、しかし決して『あたかも…かのように』という感覚を見失わずにそうすること」であり(『カウンセリングを学ぶ:理論・体験・実習』)、メンタライジングの“こころでこころを思うこと”に重なっていますね。その当たり前と言えば当たり前なことを、きちんと意識して洗練させたのが、MBTなのかもしれません。そのため、これは特殊な技法というわけではなく、サイコセラピーのツール、もしくは基盤として働くもの、と考えてみてはいかがでしょうか。