今回のブログは医局が担当いたします。

クレペリンとブロイラーによって、統合失調症はその輪郭を明瞭化させていきました。それを受けて、患者さんの病像をありのままに厳密に記述していく方法を高め、体系化しようとする学派が勢いを得、それがヤスパースとシュナイダーを筆頭とする“ハイデルベルク学派”です。この考え方が日本に主に根付いていきました。特に1950年代まで活躍したシュナイダーの“一級症状”は有名であり、精神科医で知らない者はいませんし、医師国家試験の問題にも出てくるほどです。

シュナイダーの“一級症状”

この一級症状が「異論の余地なく存在し、身体的基礎疾患を見いだすことができない場合、われわれは臨床上、謙虚さを持ちつつ統合失調症と呼ぶ」と、彼は記載しています(『新版 臨床精神病理学』 原著第4版は1955年、その和訳は1957年。引用部は原著第15版の和訳)。ここで彼は“呼ぶ”と述べていることに注意しましょう。身体的基盤が発見されていない以上、統合失調症(と躁うつ病)というのは、そう呼び習わす現象に過ぎない、という主張なのです。疾患である(あってほしい)ことを強調したクレペリンとは異なる姿勢ですね。そしてこの“謙虚さを持ちつつ”という表現は「私はこの状態を統合失調症と呼ぶけれども、他の精神科医が同じ状態を別の診断名で呼んでも別に構いませんよ」という意味のようです。

さらに、この一級症状は「統合失調症診断にとって必ずしも存在しなくてもよい。少なくとも、一級症状は必ずしも目に見えるとは限らない」とも述べており(『新版 臨床精神病理学』)、彼の呼ぶ統合失調症という現象に必発するわけではありません。その際は、二級症状や表出症状に基づいて診断を行わざるを得ない、とされます。

以上のように、彼は一級症状を列挙しましたが「統合失調症であればそれがあり、またそれがあれば統合失調症なのだ。異論は認めない」と明言したわけではない、というところがポイントでしょうか。ここは誤解が多いので注意しましょう。

そして現在、一級症状は統合失調症(現在私たちがDSMに則って診断する統合失調症)を診断する際に有用ではないということも明らかになっています(Psychol Med. 2020 Sep 18;1-4.)。それを受けて、DSM-5とICD-11からは一級症状を特別扱いしなくなりました。しかしながら、こういう研究結果を見て、シュナイダーを格下げするのは間違っているのでしょう。彼は“謙虚さを持ちつつ”呼んでいたのですから。