今回のblogは医局の担当です。

新型コロナワクチンについて

可知記念病院では住民の方や当院で治療中の方に週6日体制で新型コロナワクチン(ファイザー製)の接種を行っています。
ワクチンの目的はウィルスや細菌に対する中和抗体を作ることですが、これまでは開発は非常に難しいとされてきました。
理論上は中和抗体ができるはずなのに、役に立たない抗体や有害な抗体が出来てしまうことも多く、開発の過程で有望なワクチン候補として残るのは数パーセントと言われていました。

よって有効性と安全性を高いレベルで実現したファイザーやモデルナなどのメッセンジャーRNAワクチンを短期間で開発できたことは、人類にとってとても幸運なことでした。

しかし、ここのところ副反応や長期的なリスクを心配する意見が目立ってきたように思います。
確かに、これまでのワクチンと比べて短期間で開発されたことも、安全性に疑念が生じる要因のようです。

ただ、ファイザーやモデルナなどのメッセンジャーRNAワクチン自体は新型コロナウィルスが流行る以前から研究されていましたし、世界中で新型コロナウィルス感染症が猛威を振るっていたことから、アメリカが多額の資金を投入し、治験がスムーズに進んだという経緯があります。

承認に至る議論も公開で行われているなど透明性は高く、長期的なリスクについては他のワクチンや治療薬と同等と考えられます。ただ、針で異物を注射するという行為自体が不安をかき立てやすいのかもしれません。

誤情報やデマの拡散

世界は新型コロナウィルスによるパンデミックのみならず、誤情報やデマの拡散にさらされています。
多くの人々が「専門家は深刻さを誇張している」とか、「ワクチンは変異株に効かない」「ワクチンが病気を引き起こす」「接種者のDNAを変化させる」などのデマ情報に惑わされています。
これらの主張を信じてしまうとワクチン接種意欲が低下し,集団免疫の実現が困難となります。
様々な意見があることは承知していますが、可知記念病院としては1年以上にもわたるこのパンデミックを終焉させるためにも、新型コロナワクチンの接種を皆様に強くお勧めしています。
当院の職員もほぼ全員2回のワクチン接種が完了していますが、深刻な副反応は今のところ生じていません。
皆様の参考となるように、新型コロナウィルスやワクチンについての情報を著名な学術誌や、政府の公式サイトから以下にまとめてみました。

[ワクチンの有効性]
●ファイザー・ワクチンの2回摂取完了者の血清は、インドのデルタ株、カッパ株、ナイジェリアのイータ株など、実験を試みたすべてのウィルス株に対して中和できた。(Nature. Jun 10, 2021)

●ファイザー・ワクチンは2 回目の接種から 7 日以上経過した後では、症候性および無症候性、いずれの感染症の発生率が低い。(JAMA. May 6, 2021)

●ファイザー・ワクチンは12~15 歳を対象とした場合、良好な安全性を示し、かつ16~25歳の若年成人よりも強い免疫反応を示し、感染に対して高い有効性を示した。
(New Engl J Med. May 27, 2021)

●既感染者(成人)のワクチン接種1回で十分である。感染歴のある人のワクチン1回接種は、感染歴のない2回接種者よりも効果が大きい。
(New Engl J Med. April 14, 2021)

[ワクチンのリスク]
●接種後0~7日目に、注射部位の反応(1回目:70.0%,2回目:75.2%)または全身性の反応(1回目:50.0%,2回目:69.4%)が見られる。
初回接種後の副反応は、注射部位の痛み(67.8%)、疲労感(30.9%)、頭痛(25.9%)、筋肉痛(19.4%)であった。
ファイザー、モデルナ・ワクチンとも、2回目の接種後に大幅に副反応の頻度が増加し、疲労感(53.9%)、頭痛(46.7%)、筋肉痛(44.0%)、悪寒(31.3%)、発熱(29.5%)、関節痛(25.6%)となった。
これらは2回目の接種後1日目に最も多く、症状が治まるまでの期間は短かった。
(JAMA. April 5, 2021)

●アナフィラキシーは稀であり、新型コロナウィルスの罹患率、死亡率を考慮すると、ワクチン接種の利点は、治療可能であるアナフィラキシーのリスクをはるかに上回る。
アナフィラキシーが出現する確率はファイザー・ワクチンで4.7件/100万回、モデナワクチンで2.5件/100万回である。
治療として92%でエピネフリンが使用され、48%が入院し、入院期間は1~3日であった。
(米国 ワクチン有害事象報告システム(VAERS))

●ワクチン接種後でも変異株による感染が稀ながら生じることが示された。ワクチン接種後もマスク着用などの感染防止対策を継続する必要がある。
(New Engl J Med. April 21, 2021)

[新型コロナウィルス感染症のリスク]
●令和3年6月16日時点の日本での新型コロナウィルス年代別死亡率は50歳代で0.3%、60歳代で1.3%、70歳代で4.9%となっている。これは季節性インフルエンザの死亡率(0.1%)と比べてかなり高い。特に就労可能年齢である60歳代の死亡率の高さが印象的である。
(厚労省 https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html)

●無症状の感染者からの感染は59%を占める。症状をもつ患者の特定と隔離だけでは、新型コロナウィルスの感染拡大を抑制できない。感染拡大の抑制のためには、無症状感染者からの感染リスクを減らすことが不可欠で、そのためにはマスク着用、手指衛生、社会的距離、そしてPCR検査の拡大が絶対に必要である。
(JAMA Netw Open. 2021;4)

●新型コロナウィルス感染後、少なくとも1つの「持続的な症状」を経験した者の割合は72.5%と高かった。最も多く報告された持続的な症状は、疲労感と息切れであった。
「脳の霧」と呼ばれる集中力の低下は患者の約4分の1が経験していた。他の研究では認知機能の低下(17.6%)、記憶力の低下(28.3%)を認めた。以上より、新型コロナウィルスの症状は、急性期を超えて持続し、生活の質に影響を与えることが示された。
(JAMA Netw Open. 2021;4)

●新型コロナウィルス患者のうち6か月間に神経、精神疾患の診断を受けた推定発生率は33.62%であり、12.84%の患者がこれらの診断を初めて受けた。
疾患別には不安障害17.39%、虚血性脳卒中2.10%、精神障害1.40%、認知症0.67%、頭蓋内出血0.56%、パーキンソニズム0.11%、であった。
インフルエンザ患者群と比べて、ほとんどの疾患で頻度が高かった。
(Lancet Psychiatry. April 06, 2021)