今回のblogは医局の担当です。
セロトニン症候群そして悪性症候群その2
前回は、セロトニン症候群と悪性症候群の症状の違いを見てみました。ここでは検査所見について違いを提示します。悪性症候群ではCK上昇が有名で、身体所見で認められるrigidityを反映しており、CK以外にも筋に含まれるLDHやASTなども悪性症候群では90%ほどで上昇します。ただ、セロトニン症候群でもrigidityが強ければ上昇することがあり(それでも20%強程度)、悪性症候群でもrigidityが軽ければそれほど上がりません。他の検査所見で有用と思われるのが、血清鉄です。鉄はカテコラミン合成に関わるチロシンヒドロキシラーゼの補因子で、血清鉄の低下はドパミン合成を落としてしまい、そこに抗精神病薬を投与することでドパミン不足状態に拍車がかかるようです。これを鑑別のために使用してみても良いかもしれません。古い文献しかありませんが、血清鉄は悪性症候群のスクリーニング機能を持っていて、感度は90%以上を示すようです(Biol Psychiatry. 1998 Sep 15;44(6):499–507. Lancet. 1991 Jul 20;338(8760):149–151.)。そのため「悪性症候群かも?」とふと思った時には、血清鉄を測定項目に加えて参考にしてみると良いことがあるかもしれません。もちろん、いくら優秀なスクリーニングのマーカーとはいえ事前確率が高ければそれのみをもって除外することは不可能です。
セロトニン症候群も悪性症候群も、治療の根幹は原因薬剤の中止と輸液と冷却です。まずはこれを外さないように。付加的なものとして悪性症候群にダントロレンを用いることがありますが、セロトニン症候群では5-HT1A受容体アンタゴニストであるシプロヘプタジン(ペリアクチン®)を用いることがあります。しかし、その使用は果たして有益なのだろうか…という疑問の声も上がっており、強い推奨ではないようです(J Clin Pharm Ther. 2019 Apr;44(2):327–334.)。