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セロトニン症候群そして悪性症候群その1

セロトニン症候群は抗うつ薬の副作用の中で大御所的存在。発症率は1%以下なのですが、大量服薬や併用療法はリスクになります。鑑別として最も重要なものが悪性症候群(Ann Clin Psychiatry. 2012 May;24(2):155–162.)。悪性症候群は、多くの場合は抗精神病薬の使用(定型でも非定型でも)によって起こります。他には抗パーキンソン病薬をいきなり中断した時や、ごく稀ですがメトクロプラミド(プリンぺラン®)やドンペリドン(ナウゼリン®)といった制吐剤の使用によっても生じることが知られています。これらの制吐剤もドパミンを抑えるため、錐体外路症状などの副作用もしっかりと出てしまいます。いずれもドパミンが一気に遮断されるというのが悪性症候群の共通ですね。

 

セロトニン症候群と悪性症候群はなかなか鑑別が難しいとされています。悪性症候群はドパミンがブロックされるというのが大まかな原則で、対してセロトニン症候群はセロトニンが溢れるというのがイメージ。「使う薬剤を見ればすぐに分かるのではないか」というご意見はあるかもしれません。しかし、例えばうつ病に対して、抗うつ薬と抗精神病薬とを併用することが多々あります。“セルトラリン100 mg+アリピプラゾール3 mg”という処方を見たら、「原因はどちらにあるのだろう?」と思ってしまいます。ここで重要なのが、薬剤使用開始もしくは増量から症状発現までの期間。セロトニン症候群はほとんど24時間以内に始まるいっぽうで、悪性症候群は数日~数週間なのです。治療開始から改善の期間も同じであり、この辺りが病歴やお薬手帳の確認で欠かせません。そして、病態生理的にセロトニン症候群は神経伝達の暴走(↑セロトニン)、悪性症候群は神経伝達の鈍さ(↓ドパミン)という基本に注目してみましょう。ということは、腱反射亢進やミオクローヌスは悪性症候群において非常に稀で、セロトニン症候群を強く示唆する所見となります。かつ、セロトニンは消化管にも作用することを踏まえると、嘔気・嘔吐・下痢という消化器症状はセロトニン症候群の前駆症状として見られるもので、悪性症候群では珍しいのです。これらを参考に鑑別をしていきましょう。