豊橋市の精神科の可知記念病院です。
本日のブログは医局が担当いたします。

認知症の対応で困ったときQ&A

今回のblogは医局の担当です。認知症では認知機能低下の進行に伴って様々な行動・心理症状(BPSD)が出現します。今回は家庭でよくみられるBPSDへの対応方法についてQ&A形式でまとめました。

Q1. 日付や時間を忘れたり間違ったりすることが増えました。

日付や時間、自分がいる場所や状況などを正しく認識できないことを見当識障害といいます。環境を整えて日時などを自然に認識できるようにしましょう。空間認知の障害が進むと丸時計では時間を認識できにくくなるので、大きなデジタル時計に変えてみるのも一案です。カレンダーも一般的な月ごとのものより、認識しやすい日めくりカレンダーやデジタルカレンダーにすることをおすすめします。また、よく見るテレビ番組をつけて、時間を意識づけるのもよい方法です。

Q2. 同じ物を何回も買ってくるので冷蔵庫が溢れてしまいます。

認知症は最近の出来事を忘れるので、以前に買ったことを忘れて何度も同じ物を買ってくることがあります。一人で買い物に行くことが難しい場合は、できるだけ付き添うようにしましょう。同じ物を買おうとしたときは「あっちの店の方が安かったよ」などと関心をそらして直接否定しないようにしましょう。もの忘れを責めないで安心して暮らせる環境を整えてあげることが大切です。

Q3. 料理が単純になり同じメニューばかり作るようになりました。

物事を順序よく計画的にできないことを実行機能障害といい、認知症の初期でよく認めます。例えば毎日の献立を考えたり、料理したりすることが難しくなります。家族が代わりに全部やってしまうと機能低下をより早めてしまうので、一緒に手伝いながら料理を続けさせることをおすすめします。否定的なことを言わずにアドバイスやサポートをすることが大切です。

Q4. 食事をしたことを忘れて何度も催促するので困っています。

認知症によるもの忘れは加齢によるものとは異なり、食べた内容ではなくて食べたこと自体を忘れてしまいます。本人は初めてのつもりで催促しているので「さっき食べたでしょ!」と怒りをぶつけても本人は困惑してしまいます。初めて聞くように「これから用意するね」などと落ち着いて接することをおすすめします。催促が毎日続いて負担に感じるならデイサービスなどの通所型サービスの利用を検討しましょう。

Q5. 車庫入れの際、柱や壁に車を擦ってしまいます

認知症が進行すると、物の位置関係や距離の感覚が障害されるため、車の運転が難しくなってきます。またスピード感覚も鈍くなりスムーズに右折したり合流したりすることができなくなります。車庫入れなどで擦ってしまうことが増えた場合は、今後重大な事故を起こすおそれがあるので、運転をさせないようにしましょう。本人が納得しないなら、専門の医師の診察を受け、判断や助言を得ることが大切です。

Q6. 家電やリモコンの操作ができず壊れたと訴えます。

認知症が進行すると、それまでの生活で習得した動作が難しくなってしまうことがあり、それを失行といいます。自宅で毎日使っていた家電製品も使えなくなることがあります。だからといって、すべてを家族が手助けしてしまうと、より機能低下が進行してしまいます。ボタンに印を付けたり、大きく使い方を書いたメモを家電に貼ったりして、少しでも自分で使えるようにサポートすることが大切です。

Q7. 口数が少なくなり、何もしようとしません。

認知症の初期から中期にかけてうつ症状を認めることがあります。自発性や意欲が低下すると自宅に引きこもりがちになり、以前好きだった趣味にも関心を示さなくなります。反応しないからといって放置するとますます無関心になってしまうので、楽しいなどポジティブな感情を呼び起こすことを目標に、無理ない範囲で作業を与えてみましょう。うつ症状が強く、食事や水分を十分に摂取できないようなら、早めに医師に相談することが大切です。

Q8. 家族を泥棒扱いして財布を盗んだと訴えます。

認知症の人は大切なものが見つからないと家族や身近な人を泥棒扱いすることがあります。このように現実にはあり得ないことを真実だと強く思い込むことを妄想といいます。認知症の人が抱く妄想には被害的な内容が多く、浮気をしていると思い込む嫉妬妄想が生じることもあります。身に覚えのないことで敵意を向けられると周囲は大変困惑してしまいますが、まずは困っていることに共感し「後で一緒に探しましょう」などと気持ちを落ち着かせ、その話題から意識をそらしましょう。場所が分かったら妄想の対象となっている人以外に見つけさせるとよいでしょう。

Q9. 突然興奮して大声で怒鳴りだします。

些細なことで不機嫌となり、すぐに怒り出すことを易怒性といい、認知症の症状として見られることがあります。たいていの場合は説得することは難しいので、安全に配慮した上でそっと一人にしてみましょう。激しい興奮が30分以上続くのはまれなので、少し時間をおいてから甘いものを食べてもらったり、飲み物を飲んだりしてもらって意識をそらしましょう。怒りに対して怒りで返すと、不安や焦燥を強めるだけでうまくいきません。