今回のblogは医局の担当です。

睡眠薬について②

前回はベンゾジアゼピン受容体作動薬について書きましたが、今回はそれ以外の睡眠薬について書いてみようと思います。

 

[オレキシン受容体拮抗薬]

日中に逆らえないほどの強烈な睡魔に襲われ、突然眠ってしまうナルコレプシーという病気があります。最近まで機序が分かりませんでしたが、平成10年に覚醒を維持するために必要なオレキシンという脳内物質が発見され、過眠などの症状はオレキシンが欠乏することで生じることが分かりました。そこで、薬剤によって脳内のオレキシンが働かないようにすることで、眠りを助けようとするオレキシン受容体拮抗薬という睡眠薬が開発されることになったのです。日本では現在、スボレキサント(ベルソムラ®)とレンボレキサント(デエビゴ®)の2種類のオレキシン受容体拮抗薬が販売されています。ベンゾジアゼピン受容体作動薬のように依存性やふらつきなどの副作用が少ないという特性は魅力的で、長期的な安全性に問題がなければ、今後の睡眠薬の主流になっていくと思われます。副作用が少ないことから、高齢者にも使いやすいように思えますが、一部の併用薬の血中濃度を上げる作用があるため注意が必要です。また、効果の確実性という点ではベンゾジアゼピン受容体作動薬に軍配が上がる印象があります。つまり同じ用量で処方しても、丁度よく眠れる人もいれば、全く効かなかったり、眠気が次の日に残ったりする人がいるなど、ムラがあるということです。

[メラトニン受容体作動薬]

メラトニンという睡眠覚醒のリズムをコントロールする脳内物質があります。夕方から夜間にかけてメラトニンの濃度が上昇することで自然な眠気が生じるとされています。そこで、メラトニンと同じように脳内に作用することで自然な眠気が生じることを目指した、ラメルテオン(ロゼレム®)という薬剤が開発されました。これもオレキシン受容体拮抗薬と同様に依存やふらつきなどの副作用は少ないとされています。自然な眠気という体に負担の少ないイメージから、特に昼夜逆転している高齢者の不眠に対して期待されましたが、実際は効果にかなり個人差があるようです。アメリカでは薬局で買える薬剤なので、効果が弱い一方で、副作用も少ない安全な薬剤という位置づけだと思います。

[バルビツール酸系睡眠薬]

100年以上前に開発された古典的な睡眠薬で、麻酔薬や抗てんかん薬としても使用されてきました。しかし、大量に内服すると呼吸が停止するおそれがあるなど、安全性に問題があるため、現在では睡眠薬としてはほとんど処方されません。麻酔薬や抗てんかん薬としては今でも使用されますが、より安全性の高い薬剤が開発されているため、徐々に使用頻度は減っています。依存性もベンゾジアゼピン受容体作動薬より強いとされており、継続して内服するとなかなかやめにくい薬剤でもあります。

[抗ヒスタミン薬]

花粉症などのアレルギーに対して抗ヒスタミン薬という薬剤が使用されますが、副作用の眠気を逆手にとって、危険性の少ない睡眠薬としてジフェンヒドラミン(ドリエル®)などが薬局で販売されています。本来の用途とは違うため、精神科医が睡眠薬として処方することはほとんどありません。また、抗ヒスタミン薬には認知機能を一時的に下げる作用があるため、特に高齢者にはおすすめしません。