今回のblogは医局の担当です。

社会の高齢化に伴い、認知症を疑われて当院を受診する方が増えてきました。しかし、認知症と間違えやすい様々な精神疾患や身体疾患があるため注意が必要です。その中には治療できる病気も多く、見逃しを防ぐことが大切です。ただし、精神科医が不在の総合病院、検査体制の整っていない精神病院や心療内科クリニックでは対応できないこともあります。

当院では系統的な診察を行ったうえで、必要に応じてCTなどの画像検査、血液検査、脳波、心理検査などの追加の検査を行い、内科医と連携し診療にあたっています。今回のblogでは認知症疑いで当院を受診された方で、精査を行うことで他の病気が見つかった例をいくつか紹介したいと思います。

認知症と間違えやすい病気・疾患

認知症と似た、間違えやすい病気・疾患について解説していきます。

  • うつ病
  • 正常圧水頭症
  • 慢性硬膜下血腫
  • 老人性精神病(遅発性統合失調症様精神病)
  • 他の脳血管障害
  • 水頭症
  • 側頭葉てんかん
  • 低活動型せん妄
  • 難聴・白内障

うつ病

高齢者のうつ病では、抑うつ気分や思考抑制などのうつ病症状により、注意・集中力や判断力、記憶力が低下し、一見認知症のように見えることがあります。この状態は仮性認知症と呼ばれ、実際に認知機能検査を行っても低い点数が出ます。当院でもかなりの頻度で見かけますが、治療としては抗認知症薬ではなく抗うつ薬を使用する必要があります。

正常圧水頭症

頭蓋骨内の隙間に脳脊髄液が過剰にたまることで脳が圧迫され、特徴的な三徴候を呈する病気です。

  • 認知機能低下(記憶障害、注意力低下、無気力など)
  • 歩行障害(小刻み歩行、すり足歩行)
  • 尿失禁

くも膜下出血などの後遺症として認めることがありますが、原因が分からない特発性正常圧水頭症も高齢者に多く見られます。ゆっくりと進行することが多く、認知症と間違われやすいです。頭部CT検査やMRI検査で脳室の拡大を確認し、診断します。脳神経外科で脳脊髄液を逃がすシャント手術を行うことで、認知機能の改善が期待される治療可能な認知症様疾患です。

慢性硬膜下血腫

転倒などの頭部打撲をきっかけに、数週間から数か月の期間で、ゆっくりと脳と頭蓋骨の間に血がたまっていく病気です。脳が圧迫されると徐々に認知機能が低下していきますが、麻痺が出ないことも多く、認知症と間違えやすいです。頭部CT検査を行うことで診断し、治療としては脳神経外科に転院したうえで、たまった血を手術で取り除く必要があります。当院でもしばしば見かける病気です。

老人性精神病(遅発性統合失調症様精神病)

60歳以降に発症する統合失調症様の症状を呈する疾患です。幻覚、妄想(特に被害妄想)が主症状ですが、認知機能の軽度低下を伴うことがあり、認知症と間違えられることがあります。

難聴などの感覚器障害が背景にあることも多く、孤立した生活環境も発症に関与すると考えられています。抗精神病薬による治療が有効であり、認知症とは異なる治療アプローチが必要です。

他の脳血管障害

急性の脳出血や脳梗塞で認知機能低下を認めることはありますが、麻痺などの他の症状が目立つため、認知症と間違えることは少ないです。しかし、時に気づかれないまま長期間経過することがあり、認知症疑いとして当院を受診することがあります。多くは頭部CT検査で診断でき、必要に応じて脳神経外科に転院となります。

水頭症

頭蓋骨内の隙間に水がたまることで脳が圧迫され、認知機能低下、歩行障害、失禁などの症状を認める病気です。くも膜下出血などの後遺症として認めることがありますが、原因が分からないこともあります。ゆっくりと進行することも多く、認知症と間違われることがあります。脳神経外科で水を逃がす手術を行うことで、認知機能の改善が期待されます。当院でも比較的見かける病気です。

側頭葉てんかん

高齢者に多く見られるてんかんの一種です。体がけいれんしないことも多く、様々な精神症状や行動上の問題を認めることから認知症と間違われることがあります。脳波検査を行うことで診断でき、抗認知症薬ではなく抗てんかん薬で治療を行います。当院で見かける頻度は比較的少ないです。

低活動型せん妄

せん妄とは脳機能の障害により、一時的に認知機能が低下した状態であり、身体的または精神的なストレスが誘因となることが多いです。せん妄の中でも無気力、無関心、集中困難などの静かな精神症状が中心となっているものを低活動型せん妄といいます。認知症とかなり紛らわしいのですが、症状に日内変動があることや、軽度の意識障害があることから区別します。何らかの感染症、内臓の病気、血液の異常が隠れていることも多いので、血液検査や画像検査などの検査が必要になります。内科疾患が見つかった場合は当院の内科医で対応しますが、専門医療機関に転院となる場合もあります。

難聴・白内障

感覚器の障害も認知症と間違えられやすい要因です。

難聴があると、会話の内容が十分に聞き取れず、質問に適切に答えられないことがあります。これが記憶力や理解力の低下と誤解され、認知症と判断されてしまうことがあります。高齢者では加齢性難聴が多く見られますが、耳垢の詰まりなど治療可能な原因もあります。白内障による視力低下も、周囲の状況把握を困難にし、見当識障害のように見えることがあります。物が見えにくいため、転倒リスクも高まります。

これらの感覚器障害は、適切な補聴器の使用や白内障手術により改善が期待できるため、早期発見が重要です。

認知症と間違えられやすい症状

具体的な疾患に限らず、認知症と間違えられやすい症状もご紹介します。

  • 生理的物忘れ(加齢による物忘れ)
  • 歩行障害
  • 脳梗塞後の記憶障害

生理的物忘れ(加齢による物忘れ)

加齢に伴う自然な記憶力の低下は、病的な認知症とは区別する必要があります。

生理的物忘れの特徴

  • 体験の一部を忘れる(例:昨日の夕食のメニューを忘れる)
  • ヒントがあれば思い出せる
  • 物忘れを自覚している
  • 日常生活に支障がない
  • 進行しない、またはゆっくり進行する

認知症の特徴

  • 体験全体を忘れる(例:昨日夕食を食べたこと自体を忘れる)
  • ヒントがあっても思い出せない
  • 物忘れの自覚が乏しい
  • 日常生活に支障がある
  • 進行性である

ただし、軽度認知障害(MCI)と生理的物忘れの境界は曖昧であり、定期的な経過観察が重要です。

歩行障害

歩行障害は様々な原因で生じますが、認知症と関連して見られることもあり、鑑別が重要です。

正常圧水頭症では小刻み歩行やすり足歩行が特徴的です。パーキンソン病やレビー小体型認知症でも歩行障害が見られます。脊柱管狭窄症などの整形外科的疾患による歩行障害が、全体的な活動性の低下を通じて認知機能低下をもたらすこともあります。脳血管性認知症では、小刻み歩行や歩行の不安定性が見られます。一方、アルツハイマー型認知症では初期には歩行障害は目立ちません。

歩行障害のパターンを観察することで、背景にある疾患の推定に役立ちます。

脳梗塞後の記憶障害

脳梗塞の部位によっては、記憶障害が主症状となることがあります。

視床梗塞や海馬領域の梗塞では、新しいことを覚えられない前向性健忘が主症状となり、アルツハイマー型認知症と似た症状を呈します。しかし、発症が急激であること、他の神経症状を伴うことが多いこと、画像検査で梗塞巣が確認できることから鑑別できます。視床梗塞では、記憶障害に加えて、無気力、無関心などの症状を伴うことがあります。後大脳動脈領域の梗塞では、視野障害を伴うこともあります。

脳梗塞後の記憶障害は、梗塞の拡大を防ぐための二次予防治療と、リハビリテーションが治療の中心となります。

「認知症かも」と思ったらまず受診しよう

認知症に似た症状でも、実は治療可能な病気が隠れていることは少なくありません。うつ病、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫など、適切な治療で改善が期待できる疾患を見逃さないためには、CT検査や血液検査などの系統的な精査が不可欠です。