認知症と間違えやすい病気
今回のblogは医局の担当です。
社会の高齢化に伴い、認知症を疑われて当院を受診する方が増えてきました。しかし、認知症と間違えやすい様々な精神疾患や身体疾患があるため注意が必要です。その中には治療できる病気も多く、見逃しを防ぐことが大切です。ただし、精神科医が不在な総合病院、検査体制の整っていない精神病院や心療内科クリニックでは対応できないこともあります。当院では系統的な診察を行ったうえで、必要に応じてCTなどの画像検査、血液検査、脳波、心理検査などの追加の検査を行い、内科医と連携し診療にあたっています。今回のblogでは認知症疑いで当院を受診された方で、精査を行うことで他の病気が見つかった例をいくつか紹介したいと思います。
うつ病
高齢者のうつ病では、抑うつ気分や思考抑制などのうつ病症状により、注意・集中力や判断力、記憶力が低下し、一見認知症のように見えることがあります。この状態は仮性認知症と呼ばれ、実際に認知機能検査を行っても低い点数が出ます。当院でもかなりの頻度で見かけますが、治療としては抗認知症薬ではなく抗うつ薬を使用する必要があります。
慢性硬膜下血腫
転倒などの頭部打撲をきっかけに、数週間から数か月の期間で、ゆっくりと脳と頭蓋骨の間に血がたまっていく病気です。脳が圧迫されると徐々に認知機能が低下していきますが、麻痺が出ないことも多く、認知症と間違えやすいです。頭部CT検査を行うことで診断し、治療としては脳神経外科に転院したうえで、たまった血を手術で取り除く必要があります。当院でもしばしば見かける病気です。
他の脳血管障害
急性の脳出血や脳梗塞で認知機能低下を認めることはありますが、麻痺などの他の症状が目立つため、認知症と間違えることは少ないです。しかし、時に気づかれないまま長期間経過することがあり、認知症疑いとして当院を受診することがあります。多くは頭部CT検査で診断でき、必要に応じて脳神経外科に転院となります。
水頭症
頭蓋骨内の隙間に水がたまることで脳が圧迫され、認知機能低下、歩行障害、失禁などの症状を認める病気です。くも膜下出血などの後遺症として認めることがありますが、原因が分からないこともあります。ゆっくりと進行することも多く、認知症と間違われることがあります。脳神経外科で水を逃がす手術を行うことで、認知機能の改善が期待されます。当院でも比較的見かける病気です。
側頭葉てんかん
高齢者に多いてんかんの一種です。体がけいれんしないことも多く、様々な精神症状や行動上の問題を認めることから認知症と間違われることがあります。脳波を行うことで診断でき、抗認知症薬ではなく抗てんかん薬で治療を行います。当院で見かける頻度は比較的少ないです。
低活動型せん妄
せん妄とは脳機能の障害により、一時的に認知機能が低下した状態であり、身体的または精神的なストレスが誘因となることが多いです。せん妄の中でも無気力、無関心、集中困難などの静かな精神症状が中心となっているものを低活動型せん妄といいます。認知症とかなり紛らわしいのですが、症状に日内変動があることや、軽度の意識障害があることから区別します。何らかの感染症、内臓の病気、血液の異常が隠れていることも多いので、血液検査や画像検査などの検査が必要になります。内科疾患が見つかった場合は当院の内科医で対応しますが、専門医療機関に転院となる場合もあります。