豊橋にある精神科の可知記念病院です。本日のブログは医局が担当します。
アルツハイマー型認知症の新規治療薬は死亡リスクを増大させる可能性がある
日本ではアルツハイマー型認知症の新規治療薬としてレカネマブとドナネマブが使用可能となっています。今回のblogではこれらの新規治療薬が死亡リスクを増大させる可能性があるというショッキングな論文(未査読)について簡単にまとめてみました。
https://www.researchsquare.com/article/rs-5282702/v1
この研究はアメリカにおいてアルツハイマー型認知症の新規治療薬であるレカネマブおよびアデュカヌマブで治療された患者の死亡率をアメリカの一般的なアルツハイマー病患者で観察される死亡率(10万人あたり229.3人)と比較したものです。アメリカ食品医薬品局(FDA)の有害事象報告システム(FAERS)の市販後安全性データを用いて統計的に解析されました。
その結果、レカネマブおよびアデュカヌマブ治療に伴う死亡リスクは、アメリカの一般的なアルツハイマー病患者で観察される死亡率の約3-4倍であることが分かりました。死亡率の上昇は薬剤によって引き起こされる脳浮腫および脳出血などの有害事象が影響していると思われます。
この研究の不備な点は、製薬会社が正確な処方箋数を公開していないため、治療を受けた患者数が推測(2,000人から10,000人と仮定)であるというところです。したがって、3-4倍の死亡率というインパクトのある数字でも過小評価であり、実際の死亡率はさらに高い可能性があります。ヨーロッパやオーストラリアでは「安全リスクを上回るほど有益ではない」として、レカネマブが不承認となっていますが、上記の結果はこの決定を後押しする内容となっています。ただし、今回の研究のみで危険な薬材と断定することは時期尚早であり、さらなる研究を待ちたいところです。
レカネマブを使用すると脳の浮腫や脳内の微小出血が約10-20%に生じます。大半は、無症状で経過しますが、0.6〜0.8%の頻度で、痙攣や意識障害などの重篤な副作用を引き起こすことがあります。これまでは薬剤を使用することによる死亡率の変動についてはあまり言及されていませんでしたが、この研究を受けて患者や家族に死亡率が高くなる可能性があることを事前に説明すべきであるという意見もあるようです。投与後に副作用が出現した場合は薬剤の投与を中止するという決断も必要になるでしょう。今回の研究結果はアルツハイマー型認知症の新規治療薬にとってはネガティブな内容でしたが、今後有効性が高く有害事象が出にくい患者を選別できる臨床検査が開発されれば、再評価される可能性はあるかもしれません。