豊橋にある精神科の可知記念病院です。本日のブログは医局が担当します。

慢性疼痛について:その14

慢性疼痛はとても厄介なものです。その治療薬について述べてきており、前回からマイナーなものを扱っています。今回は炎症関連なのですが、中枢性感作を考慮するとミクログリアの活性を抑えることも理論的には「これだ!」という方法ではあるものの、その最たる例であるミノサイクリンの有効性は非常にconflictingです(Neurol Sci. 2014 Jul;35(7):1067–1073. Anesthesiology. 2023 Feb 1;138(2):172–183.など)。なかなかうまくは行きませんね…。他にアストロサイトも疼痛の慢性化に重要なのでそこをターゲットにすることも有望であり、実は漢方薬の中にはその活性化を抑えるものがあるのです。生薬の附子(ぶし)がアストロサイトの活性化を抑制すること(PLoS One. 2011;6(8):e23510.)、Na+チャネルを遮断すること(J Ethnopharmacol. 2020 Sep 15:259:112963.)がそれぞれ知られており、さらにアストロサイトの活性化にAQP4チャネルが絡んでいることから(Behav Brain Res. 2020 Sep 1:393:112810.  Neurotherapeutics. 2024 Mar;21(2):e00306.)、この受容体に作用する生薬の朮(じゅつ)や猪苓(ちょれい)などに期待が集まります(MB Orthopaedics. 2015;28(5):9–14.)。そのため、例えば桂枝加(苓)朮附湯、五苓散、猪苓湯、真武湯、牛車腎気丸などが用いられます。他にも、柴胡という生薬は抗炎症作用を指摘されていることが有名(J Pharm Pharmacol. 2023 Jul 5;75(7):898–909.)。私自身も慢性疼痛には漢方薬を選ぶことがあり「きちんと選べば効くなぁ」という実感があります。外す時はキレイに外しますが…。

プリン受容体との関連では、モノアミン作動薬のパロキセチンがP2X4受容体を阻害することが知られており、ミクログリアに発現しているこの受容体を抑えることで疼痛の緩和に一役買うかもしれず、またアロプリノールはアデノシンをバックフロー的に増加させることで脊髄後角のシナプス前部に発現しているGi蛋白共役型のA1受容体を刺激し、疼痛のシグナルを弱めてくれることが期待されています。

炎症を抑えるという観点では、個人的に注目しているのがコルヒチン。痛風や家族性地中海熱に使用され、さらには心筋梗塞後の心血管リスクを軽減することが知られており、COVID-19の重症化予防もあるかどうかと言われ、これらは強力な抗炎症作用によります。(図)このコルヒチンを変形性関節症に用いることで人工関節置換術に至るまでの期間がやや長くなったという報告があり(Ann Intern Med. 2023 Jun;176(6):737–742.)、これは興味深い使用法ですね。慢性疼痛のみならず他の精神障害に対しても気になるところではありますが、ほとんど研究がないのが残念なところ(ないということは、効かずに埋もれていったということなのでしょうね…)。