今回のblogは医局の担当です。
最近変化しつつあるアルツハイマー病という病気の概念や、それに伴う様々な問題について紹介します。

アルツハイマー病の新しい概念

[血液でアルツハイマー病を診断]
血液の中のリン酸化タウ(認知症に関与するたんぱく質)を調べることによって、たとえ認知症の症状を認めなくても脳脊髄液と同程度の確度でアルツハイマー病の前段階を正確に同定できると報告されています。さらに血液内のリン酸化タウは時間に伴って増加していくことが確認されています。

現在は、新規の抗認知症薬であるレカネマブ(抗アミロイドβ抗体)が使用できるかどうかを決める検査として、アミロイドPET検査と脳脊髄液検査が使用されています。しかしこれらの検査は高額であったり身体的な負担を伴ったりするため、近いうちに血液検査に置き換わっていくものと推測されます。すでにアメリカではそのような動きが始まっていますが、これはアルツハイマー病の定義自体を拡大する活動に繋がっています。

[アルツハイマー病の新しい定義]
新しいアルツハイマー病の定義とは、記憶力に問題のない人であっても、血液で認知症に関与するたんぱく質(アミロイドβやリン酸化タウ)が上昇していればステージ1のアルツハイマー病と診断されるというものです。認知機能は正常でも抑うつ症状や不安、意欲低下などの精神症状が認められればステージ2となります。そして軽度認知障害(MCI)を認めればステージ3となり、すでに認知症を発症している患者は重症度に応じてステージ4、5、6となります。

つまりアルツハイマー病を診断するためには、認知機能低下があるかどうかにかかわらず血液検査が陽性であればよいという考え方が広がっているのです。レカネマブがアルツハイマー病の初期症状を持つ患者に使用できるようになったことにも影響を受け、この新しい定義を推進する人々は患者が早期に治療を受ければ受けるほどより効果的であると主張しています。もしこの提案が認められれば、正常な認知機能を持つ多くの人々が血液検査を行うことでアルツハイマー病と診断されることになります。

[新たな定義に対する批判]
アルツハイマー病の新しい定義を推進している少なからぬ人が製薬会社に雇用されていたり、利益を得ていたり利益相反の問題があることに注意する必要があります。たとえ血液検査で陽性であっても、認知症を発症するリスクは23%に留まるという研究もあります。したがって認知機能障害を一生涯認めないかもしれない人をアルツハイマー病のステージ1と呼ぶことは適切なのかという議論があります。認知機能障害のない人に対する有用性がはっきりしないのにもかかわらず、レカネマブなどの抗体薬が不適切に使用されるリスクも考慮する必要があります。また、認知機能に問題のない人が血液検査で異常を指摘されると、抑うつや不安、自殺願望に悩まされることがあるとも報告されています。検査結果が陽性であれば、就労や生命保険の加入の際に不利益が生じる可能性もあります。