豊橋市の精神科の可知記念病院です。
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パーソナリティ症について:その3

前回は、パーソナリティ症(パーソナリティ障害)の分類における精神分析の貢献を少しだけ述べました。DSM-5-TRではパーソナリティ症全般をこのように定義しています。

パーソナリティ症とは、規範やその人が属する文化から期待されるものから著しく偏り、広範でかつ柔軟性がなく、青年期または成人期早期に始まり、長期にわたり変わることなく、苦痛または障害を引き起こす内的体験および行動の持続的様式である。

そして、その様式は、以下の2領域以上に現れるとされています。

  1. 認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する仕方)
  2. 感情性(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)
  3. 対人関係機能
  4. 衝動の制御

それらの表出のスタイルによってA~C群それぞれの障害の計10にカテゴライズされ、これがDSMの類型モデルというものです。しかしながら、このパーソナリティ症は信頼性(診断一致率)がボーダーラインパーソナリティ症と反社会性パーソナリティ症を除いて実に低いことが明らかになっており、これはDSMの弱点でもあります。昨今の自閉スペクトラム症の拡張も手伝っているでしょう。知的障害のない自閉スペクトラム症を有する成人患者さんではA群とC群のパーソナリティ症が併存しやすいという研究(World J Psychiatry. 2021 Dec 19;11(12):1366–1386.)があるのですが、これは「こういったパーソナリティ症は自閉スペクトラム症を様々な角度から眺めたものだったのではないか…?」という疑問にもなり、またいわゆる境界知能(参考としてIQ70–85)の患者さんにはパーソナリティ症という診断が半数以上についてしまうという報告もあります(Nord J Psychiatry. 2015;69(8):599–604.)。類型モデルの限界や他の精神障害との異同が叫ばれています。「パーソナリティ症の診断基準はどうにもなぁ…」という意見が出たことにより、DSM-5では当初はこのカテゴリーを廃して抜本的に変え、5つの特性-否定的感情 negative affectivity、離脱 detachment、対立 antagonism、脱抑制 disinhibition、精神病性 psychoticism-の量的な組み合わせでパーソナリティを見ていこうという新しい特性モデルで行く予定だったようです。しかし、フタを開けてみればDSM-IV-TRを踏襲したまま。新しい分類はパーソナリティ症群の代替モデルとして紹介される程度に留まりました。いっぽう、ICD-11はDSM-5が目論んでいたものに近い形で全面的に改訂されたのです。ICD-11では各パーソナリティ症の形ではなく、重症度評価と特性の程度との組み合わせで診断されます。重症度では感情・認知・行動におけるパーソナリティ機能の障害、そして本人の苦痛や心理社会的な機能障害などが指標となり、その度合いが評価されます。パーソナリティ特性では否定的感情 negative affectivity、離隔/隔離 detachment、非社会性 dissociality、脱抑制 disinhibition、制縛性 anankastiaの5つで評価されます。ただし、ボーダーラインパーソナリティ症は他のパーソナリティ症に比べて圧倒的な研究量があり治療技法も存在するため、borderline patternというspecifierで生き残ることになりました。パーソナリティ症におけるDSM-5とICD-11、カテゴリー分類とディメンショナル分類という、方向性のまったく違う2つの診断基準が私たちの前に出現したことになります。いったいどうすれば…と思わなくもありません。それだけ精神医学は混乱しているということでもあり、進みつつあるということでもありますかね…。つづく