豊橋市の精神科の可知記念病院です。
本日のブログは医局が担当いたします。
精神病という言葉
精神病Psychosisは、色々な意味で使われてきています。現代はDSMという診断基準があり、その中での用語を共通のものとして一応の理解を私たちはしていますが、同じ言葉でも人によって指す意味が異なるのは、何も精神科だけの出来事ではありませんね。なお、“精神病”という用語は、DSM-5-TRという診断基準から“精神症”という用語に変更されていますが、ここでは従来の精神病という用語を用いて述べています。
さて、精神科医では知らない人のいない、Schneiderという昔の偉い精神科医がいます。ここで、彼の定義する“精神病 psychose”を説明しておきましょう。彼の言う“精神病”は、疾患の結果である“疾患的 krankhaft”な精神異常とされます。そのため、まさに疾患である身体疾患や薬剤による精神症状は“精神病”です。そして、身体的基盤が要請されている、つまりはその基盤があるだろうと想定されているもの(疾患的ですね)も“精神病”なのです。これは症状の程度や障害の程度とはまったく別であることを覚えておきましょう。Schneiderはこのように言っています。
いかに著しい異常体験反応も精神病ではなく、脳外傷によるいかに軽度の心的変化も、またいかに軽症の感情病性うつ病も精神病である。(『新版 臨床精神病理学』)
身体的な基盤がある、もしくはそれが要請されている(仮定されている)のであれば、どんなに軽度の症状でも“精神病”と呼ぶのがSchneiderの特徴。
それに対してDSM-Ⅲ以降では、“精神病”はほぼ精神病性や精神病状態という形容詞的な使われ方をされており、細かい変更はなされているものの、大雑把に考えて“(急性に認められる)幻覚妄想・解体した会話や行動”を指すと考えていいでしょう。これはSchneiderの定義とはかなり異なり、様々な精神障害が“精神病性”となる可能性がある、という考えです(Schneiderは“精神病”の範囲をかなり絞っているので、そうではないですよね)。それは例えば境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)や解離性障害(解離症)やPTSDなど、です。つまり、この用語は疾患ではなく症状面を記載するものとなっているのです。この違いを覚えておくことはとても大切。次回はこの“精神病”について、今回述べていないことの補遺を記します。