豊橋市の精神科の可知記念病院です。
本日のブログは医局が担当いたします。
話の内容ではない?
『夜と霧』で名に負う精神科医フランクルの逸話があります。
ある日、午前3時に知らない女性からフランクルに電話があり、「これから死ぬつもりなんだけれども、その前にフランクルっていう精神科医は何ていうか聞いてみたくなった」とのこと。それに対してフランクルは、生きていくべきだということを、手を尽くしてお話ししたそうです。30分くらい話したところで、その女性は「今日は死ぬのをやめました。明日先生に会いに行きます」といって電話を切りました。翌日、会いに来た女性にフランクルは死ぬのをやめた理由を聞くと「正直、先生の話した内容は少しも心に響かなかった。でも、先生が深夜に知らない人間に起こされても怒らず辛抱強く話を聞いてくれて、“こういうことが起こる世界は生きるに値するかも知れない”という思いが出てきました」と。
死を決意した人にとって、あのフランクルですら内容では意味を持たないこともあると私は知りました。しかし、誠実で見捨てない30分間が、つながりを回復させた、そのことが治療的だったのでしょう。人が自殺する時、その自殺を防げる時、フランクルの逸話から、その端的な例を見た気がします。