豊橋市の精神科の可知記念病院です。
今回のblogは医局の担当です。

病跡学とは?

病跡学と呼ばれる学問について簡単にまとめてみました。
病跡学(pathography)とは著名な人物の精神病理的側面を検討し、それがどのように彼らの活動に影響を及ぼしたか解き明かそうとする学問です。ドイツの精神医学者P. J. Möbius(1853―1907)によって初めて提唱され、天才と狂気の関連という古代ギリシア以来議論されてきたテーマを、精神病理学の考え方で引きついだ形になっています。日本では戦後になってから様々な研究が行われるようになり、1966年に日本病跡学懇話会が発足し、1979年には日本病跡学会に発展して様々な研究活動が行われています。
統合失調症では、その症状である幻覚や妄想などの特異な体験が、芸術家の作品に独特の個性を与えるとされています。例えば画家であるムンクは妄想型の統合失調症に罹患していたとされています。代表作の「叫び」では、外界のものが何か意味を持って迫ってくるように知覚されたり、聞こえるはずのない声がしたりするといった統合失調症の症状が見事に表現されています。
同じく画家であるゴッホにおいては、輪郭が曖昧な幻想的な作風から、統合失調症にみられる知覚変容の影響が感じられます。また、自分の耳を切り落としたという衝撃的なエピソードからは幻聴の存在を指摘する人もいます。彼は精神的な問題に苦しみ、わずか37歳で自らの命を絶ったとされています。
他に統合失調症圏の天才としては、ドイツの作曲家シューマンが知られています。彼はしばしば奇行が目立ち、晩年を精神科病院で過ごすことになります。その時々の精神状態によって、美しく親しみやすい曲から晩年の難解な曲まで、作風がかなり異なるのが特徴的です。
気分障害圏の天才としては宮澤賢治などが知られています。彼は双極性障害にり患していたとされ、そう状態の時の情熱的で行動的な側面が、壮大で理想主義的な表現に影響した可能性があります。反対にうつ状態では生産性が低下するものの、心的内面の苦悩が作品に深みを与えたかもしれません。
発明王エジソンの幼少時はかなりの「知りたがり屋」だったようで、先生に質問を繰り返して困らせていました。結局学校を追い出されてしまいますが、その特別な才能を信じた彼の母親は学校に代わって教育を行い、興味を持ったことを何でも自由に勉強させました。エジソンは、現在でいうところの自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)であったといわれています。
知的障害や自閉スペクトラム症の特性を持つ人が、特定の分野で突出して才能を示すことをサヴァン症候群といいます。画家の山下清は幼少時には周囲より知的能力が低かったとされています。養護施設での生活に飽きた彼は放浪の旅に出かけますが、道中の情景を細部まで記憶することができました。彼の優れた記憶力や行動の特徴などからサヴァン症候群であったと考えられています。