豊橋市の精神科の可知記念病院です。
今回のblogは医局の担当です。
自殺予防についての間違った考え方
世界では毎年80万人以上の人々が自殺によって死亡しており、15歳から29歳の死因の第2位となっています。自殺の結果、本人の未来が奪われるだけではなく、周囲の人たちにも多大な苦痛を強います。成人1人の自殺の背景には、20以上の自殺関連行動があると指摘されており、実行に移す前に何らかの対応を取ることで自殺を予防できると考えられます。しかし、多くの文化において日常生活で自殺を話題にすることはタブーに近く、誤った対応をされることが多いのが現状です。今回は自殺についての間違った考え方をまとめてみました。
①自殺したいと話す人は実際には自殺するつもりはない
自殺を考える人の多くが抑うつ、不安、絶望を感じており、自殺以外の選択肢はないと感じています。自殺を口にすることで周囲に援助や支援を求めているのであり、自殺関連行動をしない保証はありません。
②自殺について話すのは、自殺を促してしまうのでよくない
自殺についての偏見や忌避が広がっているため、自殺を考えている人の多くは誰に相談したらよいかわかりません。包み隠さず話しやすい環境を整えることで、自殺念慮を抱いている人に自殺関連行動を促すよりはむしろ、決断を思いとどまる猶予を与え、自殺を予防する効果があります。
③ほとんどの自殺は予告なく突然起こる
予兆がないままに起こる自殺もありますが、多くの自殺関連行動には言葉や行動による事前の警告サインがあります。警告サインが何であるかを周囲が理解し、用心することは大切です。
④自殺したい人の決意は揺るがない
自殺の危機にある人は、苦しみから逃れるために死にたいのであって、実際には生死に関して両価的で、死にたいけど生きたいと述べる人もいます。自殺念慮の多くは状況依存性で、その瞬間を乗り越えれば短時間で軽減することも多いです。一旦改善した自殺念慮を再び抱くことがあるかもしれませんが永遠に続くわけではありません。以前に自殺念慮を持っていた人や自殺企図をした人でも、適切なタイミングで介入することで長生きすることができます。
⑤精神疾患がなければ自殺することはない
うつ病、双極性障害、統合失調症、境界性パーソナリティ障害などの多くの精神疾患で自殺のリスクが上がることが知られています。しかし、精神疾患を有するからといって、多くの人が自殺関連行動を認めるわけではありませんし、自らの命を絶つ人すべてが精神疾患を有するわけではありません。自殺関連行動は深い悲哀を意味しますが、必ずしも精神疾患を意味するわけではありません。