豊橋市の精神科の可知記念病院です。
今回は医局が担当します。

“心因性”は脳機能の不調である

心因性について以前述べており、今回はその続きです。

私自身は心因性という用語をあまり使いませんが、それは心理的な背景を軽視しているわけでは決してありません。「解決に心理的な要素が必要だという考えを大きくしておこう」という決意はもちろん持っておきます。

「心因に薬は効かない。サイコセラピー(心理療法)を行なうべきだ」とは言われますが、患者さんの苦しむ症状が本当に心因なのか、は言ってしまえば誰にも分かりません。あくまでも“想定される”ということですね。サイコセラピーのひとつである認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)は聞いたことがあるかもしれませんが、それによって脳機能に変化が生じることが分かっており、サイコセラピーが神経基盤の修復をきちんと行なうのです。うつ病や不安障害に対する抗うつ薬治療とサイコセラピー(主にCBT)とでは、脳機能の変化する領域が異なることが明らかになっており(Br J Psychiatry. 2021 Feb;25:1–5.)、サイコセラピーは現在の抗うつ薬とは異なる作用機序を持っている治療であり、神経基盤にしっかりと影響を与えるのだと理解すると良いでしょう。

心因性と言われ悩んでいるかたは一定数います。そんなかたは、心因性というのは脳機能の不調である、と置き換えてみてください。その不調に拍車をかけるのが、様々な欲求不満や葛藤である、ということなのです。決してそれが原因なのではなく、不調があり、それに拍車をかけるものという位置づけです。

脳機能の不調がなぜ起こるのかは様々な意見があり統一されてはいませんが、少なくとも、世間や医者からも言われてしまう「甘えだ」「心が弱いからだ」という意見は否定します。むしろ、甘えたくても甘えられなかった人たち、だと言えるかもしれません。苦痛をなんとか自分で飲み込んできた、飲み込まざるを得なかった人たち。生来的な因子もあるでしょう、環境因子もあるでしょう、それらが組み合わさり、患者さんはうまく苦痛を表現できず、脳機能に影響を与えていったのかもしれません。治療者はそのような背景を汲み取り、患者さんや周囲を手助けしていきながら、診ていくということ。その決意がなければ、“心因性”と軽々しく呼ぶべきではないのです。決意なき言葉は暴力以外の何者でもなくなってしまい、その自覚なき治療者は害悪でしかありません。