豊橋市の精神科の可知記念病院です。
今回のブログは医局が担当します。
impairmentとdisability
英語のimpairment(インペアメント)とdisability(ディスアビリティ)は、いずれも日本語では“障害”と訳されますが、その意味は異なります。ディスアビリティは、環境との相性とも言えるもので、その相性が良ければ障害ではなく、相性が悪ければ障害となるのです。足が動かなくて車いすで生活するかたの移動について考えてみると、階段ばかりではたしかに障害となってしまいますが、スロープやエレベーターが充足していれば、障害が発生しないのです。いっぽうインペアメントは、環境に影響を受けず独立している身体の特徴としての障害を指します。車いすのかたであれば、足が動かないというのがまさにインペアメントです。
ここで考えてみたいのは、自閉スペクトラム症の診断基準にあるコミュニケーションの障害について。当然ながら、コミュニケーションは一人でできるものではありません。二人以上がいて初めてなされること。これは明らかにインペアメントではなくディスアビリティなのです。診断基準という、まさにその本人の特徴を示すべきもの、つまりインペアメントを示すべきものの中に、ディスアビリティが紛れ込んでいると言えるでしょう。それをインペアメントのように記載し、その問題は本人にありとしていることには、強い不満を覚えます。実際に、自閉スペクトラム症のかたがたは同じ自閉スペクトラム症のかたがたに共感を示すという研究もあります(Soc Cogn Affect Neurosci. 2015 Feb;10(2):145-52.)。インペアメントではこのようなことは生じません。
コミュニケーションの障害というディスアビリティを示すインペアメントには多くのものがあるはずです。それは個々の患者さんで様々であり、医療者と患者さんとが一緒に探していくべきものだと思います。少なくとも医療者は、コミュニケーションの障害を患者さんが有しているインペアメントとしてとらえないことを意識しておかねばなりません。