今回のブログは医局が担当します。

ニューロダイバーシティ

自閉スペクトラム症は様々な大御所の努力の甲斐あり現在の診断基準となったのですが、ちょっと思うところは、診断基準の“社会的相互交流やコミュニケーション”について。交流やコミュニケーションというのは、当然ながらひとりではできません。交流は“交わる”ものですし、コミュニケーションの語源はラテン語のcommunis(共有)です。2人以上を要するのは明らかですね。そう、人と人との“あいだ”で生まれることであり、お互いが関与し合います。関係性に起因することが前提なのに、診断基準は自閉スペクトラム症と診断される人たち個人に対してのみ向けられています。致し方のない点かもしれませんが、majorityからminorityへの視線というのを感じずにはいられません。そういうこともあり、最近はいわゆる定型発達(神経学的多数派)を含めたneurodiversity(神経多様性)が叫ばれています。興味のあるかたは、村中直人先生の『ニューロダイバーシティの教科書』をぜひご覧ください

ちなみに、自閉スペクトラム症の仮説的な部分で私が面白いなぁと思うのは、自閉スペクトラム症を有する方々はアロセントリック座標の利用とエゴセントリック座標の利用とにあまり差がない、というもの(PLoS One. 2020 Nov 18;15(11):e0236768.)。アロセントリック座標とは、外的対象の位置を理解するために、参照枠とする基準のこと。対して、エゴセントリック座標とは、こういう枠とは無関係に、自分自身との位置関係だけで外的対象を理解すること。いわゆる定型発達の方々はアロセントリック座標をめちゃくちゃ使います(アロセントリック>>エゴセントリック)。全体的な枠を参照して、つねにお互いの関係で判断します。注意したいのは、定型発達のとらえ方はモノゴトを正しく認識していることではないということ。枠や関係によって歪ませる、外的対象そのままの理解が困難になるということでもあります。枠に引っ張られない自閉スペクトラム症の特性がこのアロセントリックとエゴセントリックでかなり理解できるのではないか?と期待していますし、これも神経の多様性を示している傍証なのだとも思います。