今回は医局が担当します。

自閉症の診断基準変遷

ここからは、自閉症についてICDとDSMにおける違いを示してみます。
自閉症は、ICD-9まで“精神病”の扱いでした。自閉症の統合失調症説を引き継いでいたのですね。ICD-10になって“広汎性発達障害群 Pervasive Developmental Disorders:PDDs”という名称になり、精神病から抜け出した格好になっています(DSMも、DSM-IIIから自閉症をPDDsというグループにしています)。このICDとDSMの診断基準の原型を作ったのがラターであり(Adv Biol Psychiatry. 1978;2:2-22)、彼の貢献度は計り知れませんね。
DSMでは、DSM-IIIとDSM-III-Rで意外に大きな変化があり、1980年に発表されたDSM-IIIにおける小児自閉症の診断基準は
・他人に対する反応の広汎な欠如
・言語発達の明らかな欠損
・環境の様々な側面に対する奇妙な反応
であり、カナーの指摘するような重度のものを指していたと考えていいでしょう。7年後に発効されたDSM-III-Rでは自閉性障害という名称になり、基準は
・相互の社会的交流の質的障害
・言語と非言語のコミュニケーションの質的障害
・活動と興味の明らかな限局
となっています。大きな変化というのは、“反応性の欠如”から“相互性の障害”への変更であり、ラターの報告や、ウィングが1981年に発掘したアスペルガーの論文を受けたことによります(Psychol Med. 1981;11:115-29.)。これは量的な障害から質的な障害に変わったと言え、大きな転回点だったように私は思っています(皆さんはどうですか?)。ウィングはイギリスの精神科医なのですが、彼女はアスペルガーの報告を示しつつ、批判的な見解を交えながら詳細に検討し、対人関係の障害が自閉症の中核であると述べ、自閉症の範囲を広げていきました。その理由は、それまでのイギリスでの自閉症の基準があまりに狭く(主にカナーの報告にあるようなタイプのみ)、自閉症的な子どもたちに必要なサポートが行き渡らなかったためだとされています。

PDDs(広汎性発達障害群)の下位障害については、その数がICD-10とDSM-IVとで違いがあり、またそれぞれの障害が独立した臨床単位なのかどうかの態度も異なっています。そして、ICD-11とDSM-5では、レット症候群が神経疾患として除外され、他の下位障害の分類は「独立した単位として扱う妥当性に乏しい」として撤廃され、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)として一括されたのでした。この“スペクトラム”という名称は、ウィングによる影響が大きいとされます。自閉症からいわゆる定型発達に渡る、単なる“continuum”としてとらえた場合、定型発達が“白”、自閉症が“黒”、両者のあいだが“グレーゾーン”という表現になってしまいます。ウィングも当初は“自閉症連続体 autistic continuum”という用語で表していたのですが、ひとりひとりの輝きを重視したいということで、スペクトラムという表現に変更したそうです。重度の自閉症を有する娘さんを持つ母親としての暖かい視線を感じますね。私は以前に“グレー”という表現を何も考えずに使ってしまっており、反省しきりです…。