病気不安症について:その4
愛知県豊橋市の精神科の可知記念病院です。
今回はのブログ医局が担当します。
前回は本症の発症とその維持についてのお話でした。
治療ですが、これは認知行動療法(CBT)が最適であり、高い効果量を誇ります(Expert Rev Pharmacoecon Outcomes Res. 2019;19(6):663–76.)。心的外傷体験が絡んでいる場合は医療者の対応がその繰り返しにならないよう、最大限の気配りをしておきましょう。薬剤ではSSRIが専ら使用され、DSM-IV-TR時代の試験(診断が“心気症”の時代)では、パロキセチンがCBTと同等の有効性を示しました(Am J Psychiatry. 2007;164(1):91–99.)。経験的にもSSRIは有効だと感じていますが、病気不安症を有する患者さんは薬剤治療に対して納得できなかったり及び腰であったり、そして副作用にも敏感なことも多いので、導入や増量はかなり慎重になるべき。ここを無理すると非常に難しくなってしまいます。病気に対して不安になることはもっともだという態度を常に示しましょう。患者さんの来し方行く末を想像するに、不安になってしまうのも無理はないのです。いっぽうでそれが強くなってその人を苦しめている事実も、忘れずにそっと指摘します。不安が大き過ぎることは、多くの患者さんが同意してくれるため、不安を役に立つ不安にするためのアシストが薬剤の働きであることを、説得にならないように示します。なお、不安に苦しむ時間が少なくなったらどんなことをしたいかと問うことも有用であり、その答えを聞いた後に、それに向かって私たちも協力していくという姿勢を見せていきます。SSRI単剤が効かない場合は、抗精神病薬、すなわちD2受容体遮断+α薬を少量噛ませる、三環系(特にクロミプラミン)に切り替えるといった手段をとる、SSRIの副作用が心配であったり高齢であったりであればタンドスピロンなど柔らかな薬剤や漢方薬をまず使用する、などとなりますが、この辺りはエビデンスに乏しいのが現状。中にはフラッシュバックとして病気不安がやってくることもあり(構造的解離論では、精神表現性の陽性解離症状)、その場合はイフェンプロジルや神田橋処方などが主役となってくれるでしょう。どんな薬剤を用いるにしても、副作用に注意しながら、そして薬剤の意義をきちんと説明しながら、が大前提です。