豊橋にある精神科の可知記念病院です。本日のブログは医局が担当します。
慢性疼痛について:その15
慢性疼痛の治療について長々と述べましたが、注意すべきはオピオイドです。これは侵害受容性疼痛に有効であり神経障害性疼痛にも多少は効くものの、どのような慢性疼痛にも第一選択にはなっていません。そして痛覚変調性疼痛では上述のように内因性オピオイド濃度が高くなっているためかあまりパッとせず、場合によっては疼痛を強めてしまう可能性があります(Clin Obstet Gynecol. 2019 Mar;62(1):3–10.)。高率に消化器症状を来たすことはもう言うまでもありませんね。アディクションの罹患率は報告によって1%以下から25%以上までとされ、これはアディクションの定義や研究に組み込まれる患者さんの違いなどのために幅が出過ぎてしまっているようです(Subst Abuse Treat Prev Policy. 2017 Aug 15;12(1):36.)。
そのオピオイドで最も処方しやすいのは、麻薬処方箋が不要なトラマドールでしょうか。そのためついついオピオイドという考えが抜けてしまうのですが、トラマドール150 mgはモルヒネ30 mgの換算になることは覚えておきましょう。また、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込み作用をも持つので、SNRIのオーラを纏っています。そのためセロトニンを増やしたりその受容体に結合したりするような薬剤、またはCYP2D6を阻害する薬剤との併用では特にセロトニン症候群やけいれんのリスクが高まります(Am J Med. 2018 Nov;131(11):1382.e1-1382.e6.)。いっぽうで、このトラマドールはCYP2D6によって鎮痛作用を持つ活性代謝物に変貌を遂げるため、CYP2D6を阻害する薬剤があることで疼痛コントロールが悪くなってしまうことが報告されています(Clin Pharmacol Ther. 2024 Oct;116(4):1005–1012. Ann Intern Med. 2024 Aug;177(8):1058–1068.)。これはコデインやオキシコドンについても同様です。