今回のblogは医局が担当します。JAMA Neurologyにアルツハイマー病の定義に関する議論が掲載されていたので紹介したいと思います。
https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/article-abstract/2825806

2018年以降、アミロイドβやタウタンパクなどのバイオマーカーの発見に基づいて、アルツハイマー病を純粋に生物学的に定義する動きが出てきました。アルツハイマー協会はたとえ認知機能が正常であっても、血液検査でアミロイドβやタウタンパクといったバイオマーカーが陽性であればアルツハイマー病と診断することを提案しています。しかし、これらの大多数は近い将来に認知症の症状が現れないことが示されています。著者らが所属する国際作業グループはこうした生物学的な最新のアルツハイマー病の診断基準が臨床に適用されることを懸念し、以下のような提案を行っています。

1 アルツハイマー病バイオマーカーのみが陽性の認知機能が正常な人に対し、アルツハイマー病と診断することは慎重であるべきである。

2 これらの人々は「アルツハイマー病リスク状態」とみなすべきであり、アルツハイマー病そのものと診断することは不適切である。

3 アルツハイマー病の診断は臨床症状とバイオマーカーの組み合わせに基づくべきで、認知機能障害が伴わない限り診断を行わないようにすべきである。

1の「アルツハイマー病バイオマーカーのみが陽性の認知機能が正常な人に対し、アルツハイマー病と診断することは慎重であるべきである」については、バイオマーカーの有用性が研究段階では高く評価されているものの、臨床現場ではその限界が明らかであると述べています。実際に認知機能が低下していない人がバイオマーカー陽性であったとしても、多くは生涯にわたってアルツハイマー病を発症しないことが知られています。

以上からこのような人々を2のように「アルツハイマー病リスク状態とみなすべきであり、アルツハイマー病そのものと診断することは不適切である」と主張しています。これにより、本人や周囲の人々の不必要な心理的負担および社会全体に対する影響を回避することができます。

3の「アルツハイマー病の診断は臨床症状とバイオマーカーの組み合わせに基づくべきで、認知機能障害が伴わない限り診断を行わないようにすべきである」との提案については、アルツハイマー病の診断がより正確で包括的な、臨床症状と生物学的根拠の両方に基づいたものであるべきという立場です。さらに認知症でない人に対するバイオマーカー検査は研究目的でのみ行うべきとし、診断目的では避けるべきだとも述べています。