豊橋にある精神科の可知記念病院です。本日のブログは医局が担当します。
慢性疼痛について:その12
慢性疼痛の治療薬について、前回はカプサイシンについて述べました。今回は日本の慢性疼痛治療ガイドラインにも神経障害性疼痛ガイドラインにも含まれているワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(以下ノイロトロピン®)。これは評価しづらいというか何というか…。個人的には、これを使用する根拠がちょっと不明であり、ウサギがかわいそうなのではないかと。ガイドラインに載るほどのものなのか、それともそれを載せるガイドラインの質があまり良くないのか。詳細な作用機序はよく分かっていませんが、後根神経節において電位依存性K+チャネルの閾値を上げる作用(J Pharmacol Sci. 2018 Jul;137(3):313–316.)、下行性疼痛調節系の5-HT3受容体とα2受容体への作用(J Pharmacol Sci. 2005 Mar;97(3):429–436.)、中脳水道周囲灰白質のP2X3受容体の活性化作用(Iran J Basic Med Sci. 2021 Oct;24(10):1395–1403.)が指摘されています。他には神経炎症を鎮めることも報告されており、NF-κBやMAPKの経路を抑えるようです(J Pharmacol Sci. 2018 Apr;136(4):242–248. CNS Neurosci Ther. 2017 May;23(5):428–437.)。これらの作用によって血管性認知症モデルマウスの認知機能障害を回復したという報告があるにはあります(Neurochem Int. 2023 Dec:171:105625.)。抗炎症作用は少し気になるものの、文献的なエビデンスの質や個人的な臨床経験の面からは「ノイロトロピン®ってすごい!さすが日本の薬!」という気持ちにはなかなかなりにくいかもしれません。贔屓目に見てあげると、投与量を上げるとひょっとしたらどうかな?といったところでしょうか。