最近使用可能となったコロナワクチン(レプリコンワクチン)について様々な情報が世の中にあふれており、不安になった人から質問を受けることがあります。今回のblogではレプリコンワクチンのエビデンスに基づいた情報を簡単にまとめてみました。
レプリコンワクチンはコロナウィルスのスパイクタンパクの遺伝子に加えて、RNAレプリカーゼという酵素の遺伝子も組み込んだmRNAワクチンです。従来のコロナワクチンでは長い寿命の抗体産生細胞ができにくく、効果が長期間持続しないという欠点がありました。ワクチンの効果が切れてコロナウィルスに感染すると高齢者では命に関わりますし、若い人でも先月のblogで紹介したように感染後に長期間認知機能が低下するという重大な問題があります。そのため効果が長く持続するワクチンの開発が急がれていました。
https://www.nature.com/articles/s41591-024-03278-y
従来のmRNAワクチンでは細胞内でコロナウィルスの突起部分であるスパイクタンパクが作られることで免疫反応が誘導されますが、mRNAは不安定な物質であり早期に消失してしまいます。一方、レプリコンワクチンでは一過性に発現したRNAレプリカーゼがスパイクタンパクのmRNAをコピーすることで1週間程度mRNAの量が維持されます。そのため免疫反応が強化され、ワクチンに含まれるmRNAの投与量も従来の約6分の1という少量ですみます。1週間程度経過したのちにmRNAやRNAレプリカーゼは次第に細胞内から消失するので安全性にも大きな問題はないとされています。下記の論文では従来のmRNAワクチン(コミナティ)と比較してレプリコンワクチン(コスタイベ)が特に高齢者において高い免疫応答が長期間持続することが示されています。
https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(24)00615-7/fulltext
「自己増幅型」という言葉からワクチンを打つことで感染性のあるコロナウィルスそのものが増殖するという誤解をしばしば見かけます。しかしレプリコンワクチンが作り出すのは、従来のmRNAワクチンと同様にウィルス本体でなく、感染性のないウィルスの突起部分であるスパイクタンパクのみです。またワクチンの成分がワクチンを打っていない他人の健康に悪影響を与えるというシェディングという概念を主張する人がいますが、mRNAは不安定な物質であり他者に伝播することはありません。またRNAレプリカーゼは特定のスパイクタンパクのmRNAにしか作用しないので、仮に他者の体内に少量入ったとしても影響はほぼないと思われます。ただし、従来のワクチンより長くmRNAやRNAレプリカーゼ、スパイクタンパクが体内に留まるので、アレルギー反応が出ると対応が難しい場面も出てくるかもしれません。一応シェディングに言及した論文も下記にリンクしますが、査読がない信頼性の低い雑誌であり、内容にも論理の飛躍があるようです。