慢性疼痛について:その9
これまで慢性疼痛における様々なことを述べてきましたが、今回は代表的な治療薬について。
その薬剤は、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛で若干異なります。侵害受容性疼痛ではNSAIDsが前面に出ますが、多くは三環系抗うつ薬(特にアミトリプチリンとノルトリプチリン)やSNRI、その次にガバペンチノイド(ガバペンチン、プレガバリン、ミロガバリン)が出番でしょうか。神経障害性疼痛において疼痛50%改善のNNTで言えば、三環系抗うつ薬のノルトリプチリンやアミトリプチリンがNNT3.6と優秀な値を示しており、SNRIがNNT6.4となっています(Lancet Neurol. 2015 Feb;14(2):162–173.)。三環系の持つ雑多な作用がうまく働いていますね。特に三環系はうつ病に用いられるよりも低用量で効果を示すことが多くあります。ガバペンチノイド(ガバペンチンやプレガバリン)は後角においてシナプス前Ca2+チャネルのα2δサブユニットを阻害することで神経伝達物質の放出を抑えるのが主な作用。いくつかの神経障害性疼痛―帯状疱疹後神経痛、糖尿病性ニューロパシー、脊髄損傷―でNNT2.9–7.7となっています(Lancet Neurol. 2015 Feb;14(2):162–173.)。鎮痛効果でガバペンチンは用量依存性ではないのにプレガバリンは用量依存性であり、何だか面白いですね。ちょっと注意したいのは「帯状疱疹後神経痛や糖尿病性ニューロパシーで有効ということは他の神経障害性疼痛にも等しく有効である」とは言えない点。しかしながら、プレガバリンやミロガバリンはそのような拡大解釈をして“神経障害性疼痛”という適応を取得しており製薬会社のマーケティングもやや露骨なのが引っかかります。もちろんこれはガバペンチノイドに限った話ではないのですが、特にガバペンチノイドは坐骨神経痛や慢性腰痛症に有効でなく(Aten Primaria. 2022 Jan;54(1):102144. PLoS Med. 2017 Aug;14(8):e1002369.)、神経障害性疼痛でもかなり限られた病態にしかフィットしないと言えそうです。そのため「幅広く神経障害性疼痛に!」とも「痛覚変調性疼痛にもどうぞ!」とも言い難く。