豊橋市にある精神科の可知記念病院です。
本日は看護部がブログを担当します。

水分の取り方について

最近,暑くなってきましたね.「水分を取りましょう」という声があちらこちらと聞こえてきますが,水分を取り過ぎるのも体に良くないことはご存じでしょうか?精神の疾患を持っている方の中には「多飲症」となる方もいらっしゃいます.これについて軽く説明をしていきます.
【多飲症とは】
多飲症とは,飲水行動を自分で調節できない,多量の水を摂取することで体内の水分・電解質のバランスを乱してしまう,飲水行動によって日常生活に支障をきたす,といった「水を過剰に摂取してしまうという行動に着目した病態」のことを指します.
症状として,悪心,嘔吐,めまい,胸やけ,胃もたれといった消化器症状の他,むくみ,頻尿,夜尿,尿失禁,高血圧といった,水分が過剰に体に入ることによる症状があります.
重症度の簡単な見方として,軽度では1日に4%の体重変動があり,上記の症状が発生すれば重症度は中等度となり,水分制限等の介入が必要になります.

早期発見には,まずは問診となります.本人や家族に「水分を多めに取るか」等質問します.
それ以外ですと検査での値によって判断します.主に血清ナトリウム値によって判断します.しかし,毎回血液検査するのも大変なので,体重測定によって大体の値を割り出します.
体重が危険な値まで増加した場合,医師の診察が必要になります.その危険な値は,大体起床してトイレに行った後の体重+5kgといわれています.その理由ですが,通常飲水による1日の体重増減は1%と言われているそうです.4%体重が変化すると血清ナトリウム値が10mEq/L程度変動します.
ナトリウム値145-135:正常
120-134:無症状
110-119:食欲不振,悪心,嘔吐
100-109:傾眠,錯乱,けいれん,昏睡
体重60kgの人の4%が2.4kgです.4%で10mEq/L減るので,ナトリウム値の正常値135より20mEq/L下がると症状が発現し,重症度が上がる計算になります.なので,大体体重の上限を+5kgに設定することが多いです.

治療としては,重度の場合は塩化ナトリウムを投与します.それ以外の場合は水分制限が一般的です.成人の1日の水分摂取量は1500mlなのでその辺りで患者様と相談して一緒にルールを決めていきます.
飲水は精神的な疾患を持っている方の逃げ道となっている場合もあります.飲水によって幻聴が聞こえなくなったりするそうです.無理な水分制限はかえって患者様の治療の妨げになってしまう場合もあります.無理の無い範囲で決めていきましょう.
参考文献:川上宏人 松浦好徳 多飲症・水中毒-ケアと治療の新機軸 医学書院 2016年