豊橋にある精神科の可知記念病院です。本日のブログは医局が担当します。
コロナウィルス感染後の認知機能の低下
軽度のコロナウィルス感染でも記憶力や思考力の低下が長期間持続するというショッキングな研究が報告されました。今回のblogではこの論文の要点について解説したいと思います。
https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370%2824%2900421-8/fulltext
コロナウィルスに感染した患者はしばしば回復して数か月後に「脳の霧」「記憶力の低下」「言葉が見つからない」などと報告しています。従来の研究でもコロナウィルス感染後に長期間にわたって認知機能が低下する可能性が示唆されていました。しかしコロナウィルスと認知機能の関連性については、横断研究や感染後の研究に依存しているため、多くのことが不明のままでした。これらの研究では、既存の病状、職業、社会人口学的要因など、コロナウィルスへの曝露リスクの増加に関連する交絡因子が解釈を複雑にしています。また、ほとんどの研究においてサンプルサイズが小さく、自己申告の認知症状に依存していました。認知機能を客観的に測定した研究は少なく、大規模な集団で測定した研究はさらに少なかったのです。
今回の研究ではまず、若く健康なボランティア34名に野生型のコロナウィルスを接種しました。この結果18人のボランティアがコロナウィルスに感染し、17人は軽症で1人は無症状でした。入院を要するボランティアはいませんでした。ボランティアは隔離期間中および30、90、180、270、360日後の追跡期間中にiPadを使用した認知機能検査を行いました。
この結果、コロナウィルスに感染したボランティアは、急性期と追跡期間中の両方で非感染ボランティアよりも認知スコアが統計的に低いという結果が出ました。認知スコアの中で最もグループ間の差異が生じたのは記憶と実行機能についての課題でした。つまりコロナウィルス感染後少なくとも1年は記憶障害が持続するということが示唆されたのです。注目すべきことにボランティアの誰もが主観的な認知障害を報告しませんでした。
この研究はワクチン接種を受けていないコロナウィルス未感染のボランティアに野生型 のコロナウィルスを接種した最初の、そしておそらく唯一のものです。認知機能低下のプロセスは内側側頭葉機能と密接に関連していると推測されていますが、変化のメカニズムの根拠と臨床的意味は依然として不明です。また認知機能の永続的な低下を示すことではないことに注意する必要があります。