豊橋にある精神科の可知記念病院です。本日のブログは医局が担当します。
前回は慢性疼痛の病態におけるオピオイドについて述べました。
慢性疼痛について:その7
今回は慢性疼痛の治療について少し述べてみましょう。慢性疼痛の非薬剤的治療には運動が推奨され、最近は「運動こそ至高!」という風潮があるものの、期待とは裏腹に効果量が小さいことが分かっています。中では、痛みの緩和よりも機能面で、神経障害性疼痛よりも筋骨格系や広範な疼痛で、それぞれ利益がやや大きいとされています(Cochrane Database Syst Rev. 2017;4:CD011279)。サイコセラピーではCBTが有名であり「CBTがベスト!」という声も同様にありますが、決して魔法のようなものではないことが分かっています(Cochrane Database Syst Rev. 2020;8:CD007407)。そして、マインドフルネスはまだ“新しい治療”であり、色んな思惑が走っていることも加味すると適切な評価は難しいでしょう(創始者とそのシンパが臨床試験を行なうので、身びいきが過ぎる)。そもそもマインドフルネス、特にACT(Acceptance&Commitment Therapy)で痛みの軽減をプライマリアウトカムに設定すること自体がオカシナ話なのかもしれません。もちろん薬剤も大きな効果量を示せてはおらず、その閉塞感からそれ以外の治療法に期待が過剰に膨らんでしまっているとも言えるかもしれません。慢性疼痛の治療における運動やサイコセラピーの現実的な面を知れば知るほど、治療はなかなか難しいぞ…と悩まざるを得ません。もちろん、運動はして悪いことはないでしょうし、併存する精神障害の改善にも一役買ってくれます。要は、一つの治療法を盲信するのではなく、それぞれに限界があるのだと知って、一人ひとりの患者さんの症状改善に試行錯誤していくのです。
性的虐待を含むACEsと慢性疼痛との関連性も認められており(Eur J Pain. 2024 Jul;28(6):867–885.)、中でも骨盤部の慢性疼痛は小児期や青年期における性的虐待との関連が指摘され(Hum Reprod. 2023 Aug 1;38(8):1499–1508.)、これは実に象徴的な疼痛だと言えましょう。フラッシュバックとしての痛みという場合も往々にして経験します。そのため、心的外傷が背景にある場合はそれへの配慮もやはり忘れてはなりますまい。それは心的外傷に特化した治療を必ず併せて行なえということではなく、その存在を知っておいて、医療者の態度がさらなる心的外傷にならないようにする配慮が求められるのでしょう。