豊橋にある精神科の可知記念病院です。本日のブログは医局が担当します。
認知症予防についての最新情報(2024)
エビデンスに基づいた最新の認知症予防についての情報が今年7月にLancet認知症委員会によって報告されました。今回のblogではその要点を紹介したいと思います。
2020年版の認知症のリスク因子(教育の水準の低さ、頭部外傷、運動不足、喫煙、過度のアルコール、高血圧、肥満、糖尿病、難聴、うつ病、社会的孤立、大気汚染)に加えて、2024年度版は視力低下と高LDLコレステロール血症が追加され、認知症のリスクは計14個になりました。これらのリスク因子の修正は認知症患者の約45%を予防または進行を遅らせる可能性があります。
難聴と認知症との関係についてはここ数年で特に研究が進んでいます。難聴は世界で約20%の人に認められ、そのうち62%は50歳以上であり、治療されていないことも多いようです。難聴を認める場合は認めない人に比べて認知症のリスクが約37%も高いとされています。聴力が10 dB悪化するごとに認知症のリスクが16%増加するという研究もあります。一方で補聴器を使用する人は認知機能の低下リスクが約19%低いことが研究で示されています。
下図は年齢別のリスク因子と、修正によるリスクの減少の程度を示しています。中年期では難聴と高LDLコレステロール血症がともに7%と最大、老年期では社会的孤立が5%と最大となっているのが特徴的です。認知症のリスクを減らすための行動は早期から開始し、生涯を通じて続けるべきと考えられます。このため個人への介入だけではなく、国家的国際的なレベルでの政策変更を含めた積極的な認知症予防を行う必要があります。
認知症リスクを減少させるための14の行動
①教育の水準の低さ
→若年期から質の高い教育を提供し、認知機能を刺激する活動を推奨する
②難聴
→若年期より有害な騒音曝露避け、難聴には補聴器の利用を推奨する
③高LDLコレステロール血症
→中年期から検診を行い積極的に治療する
④うつ病
→早期介入し効果的に治療する
⑤頭部外傷
→スポーツや自転車などでヘルメットを着用、若年期のヘディングの規制など
⑥運動不足
→スポーツや運動を推奨する
⑦糖尿病
→中年期から検診を行い積極的に治療する
⑧喫煙
→喫煙の有害性について教育、価格管理、公共の場での喫煙防止など
⑨高血圧
→40歳から収縮期血圧を130 mmHg以下に維持する
⑩肥満
→適正体重を維持し、肥満があれば早期に治療する
⑪過度のアルコール
→アルコールの有害性について啓蒙、価格管理を通して消費を減少させる
⑫社会的孤立
→高齢者に優しいサポート環境と住居の提供、他者との共同生活を促進
⑬視力低下
→視力低下のスクリーニングと治療が可能な環境を提供
⑭大気汚染
→大気汚染への曝露を減少、国家レベルでの政策変更