豊橋にある精神科の可知記念病院です。本日のブログは医局が担当します。

慢性疼痛について:その5

これまで慢性疼痛について色々と述べていますが、今回は痛覚変調性疼痛についていくばくか。

リスクファクターは「これかなぁ」という程度のものはあるのですが、これらを持つほとんどの人は痛覚変調性疼痛を有するに至らず、何がこの疼痛に向かわせ何が抑えるのか、正確なところはまだ分かっていません。

痛みへの感受性の高さは島皮質や体性感覚皮質や視床の活性化と関連し、脳内ネットワークでは、特にデフォルトモードネットワーク、サリエンスネットワーク、感覚運動ネットワーク間の機能的結合性が強くなっており、これが痛覚変調や疼痛の広がりに関わっていると推定されています(Arthritis Rheum. 2010 Aug;62(8):2545–2555.  J Pain. 2014 Aug;15(8):815–826.e1. Arthritis Rheum. 2012 Jul;64(7):2398–2403.)。この結合性の強さはグルタミン酸濃度の上昇とGABA濃度の低下とが関係しており、線維筋痛症における研究では、島皮質や後帯状皮質のグルタミン酸濃度上昇が疼痛の強さと関連しており(Clin J Pain. 2017 Oct;33(10):944–954.  Eur J Pain. 2021 Oct;25(9):2050–2064.)、島皮質前部では興奮性により傾いていることが痛覚過敏や疼痛の強さと関連していました(Pain. 2023 Dec 1;164(12):2737–2748.)。いっぽうで、感覚運動ネットワーク内での機能的結合性は低下しており、感覚が特異的な弁別から感情に色づけられた体験にシフトしている可能性が示されています(Arthritis Rheumatol. 2024 Feb;76(2):293–303.)。

さらに下行性疼痛調節系の機能不全も指摘されており、担当する脳領域間における活動性や機能的結合性が落ちているようです(Front Neuroanat. 2017 Jun 8:11:47.)。