反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)とはうつ病などの精神疾患に対する新しい治療法です。薬物療法(化学的介入)とは異なりニューロモデュレーション治療(電磁気的介入)という分野になります。今回のblogでは最近注目されているrTMSについて簡単にまとめてみました。

rTMSはrepetitive Transcranial Magnetic Stimulationの略で、日本語では「反復経頭蓋磁気刺激療法」と呼ばれます。この治療法は、頭部に設置したコイルに電流を流すことで変動磁場を誘導し、頭蓋骨を通して脳の特定部位(背外側前頭前野)に渦電流を誘導することで精神症状の改善を図るものです。ただし、rTMSの抗うつ効果発現メカニズムははっきりとは分かっておらず未だ研究段階です。

磁気刺激は電気刺激と比較して、頭蓋骨でのエネルギー伝達効率がよく、弱い刺激強度で局所を刺激することができます。特に薬物療法に反応しないうつ病患者に対して有効とされ、研究によればrTMS治療を受けた患者の約3人に2人が一定以上の改善効果を得られるとされています。rTMSセッションを週5日間4-6週間繰り返すことによって、抗うつ効果がより長期間定着すると推測されています。

rTMSの副作用は比較的少ないですが、頭痛や頭皮の痛みや顔面の不快感などが報告されています。重篤な副作用としては、けいれん発作が挙げられますが、その発生率は非常に低いです。睡眠不足や飲酒、向精神薬の多剤併用がけいれん誘発のリスクとなる場合があるので注意が必要です。

日本ではまず2017年9月にNeuroStar TMS治療装置が薬事承認されました。続いて2019年1月にBrainsway TMSシステムが薬事承認され、大学病院などを中心に少しずつ普及が進んできています。どちらの機種も設定も含めて1セッション1時間ほどかかります。治療中は大きな音がして刺激部位に不快な痛みを感じることがありますが、セッションが進むにつれて気にならなくなることが多いようです。現在では健康保険の適応となっており、日本精神神経学会から適正使用指針が公表されています。

適正使用指針によると、抗うつ薬による十分な薬物療法がrTMS導入よりも優先されることになっています。また未成年者にはrTMSを行うことができません。気分障害の中でも中等症うつ病が適応となっており、双極性障害や軽症うつ病、切迫した希死念慮を認める重症エピソードには適応がありません。しかし研究によると、rTMSは強迫性障害や慢性疼痛、神経疾患などにも効果があるとされており、今後は適応疾患の拡大や治療効果の向上が期待されています。