豊橋にある精神科の可知記念病院です。本日のブログは医局が担当します。

慢性疼痛について:その4

前回は慢性疼痛の種類について軽くお話ししました。では、疼痛の慢性化に寄与しているものには何があるでしょうか。

疼痛も広義の内受容感覚であり、予測と実際の感覚信号との誤差がキーとなっているのでしょう。痛みへの注意、それは痛みがあるという予測信号の精度の高さにもつながりますが、その注意の揺らぎが疼痛の強さの揺らぎをもたらすことは経験的に知られており、実際にそのような研究もあり、そこでは内受容感覚に関与する脳領域の活性変化が認められました(Brain. 2002 Feb;125(Pt 2):310–319.)。組織損傷が軽度であったり損傷そのものがなかったりという状況であっても、予測信号がそれに応じて変更されず従来の信号の精度が高いままで保たれてしまうと、予測が優先された状態となり、場合によっては実際の感覚信号をも変えてしまいます。好例と言えるかもしれないのが“感作”であり、以下に末梢性感作と中枢性感作について見てみることにします。

末梢では、損傷を受けた神経組織では複数の炎症メディエーターが放出され、イオンチャネルや受容体型チロシンキナーゼやGタンパク共役型受容体に結合することで末梢の疼痛への感度を高めます。そして、ニューロンの脱分極と興奮を起こし、遺伝子発現の長期に渡る変化をもたらします。例えば、NGFやブラジキニンはTRPV1の発現を、プロスタグランジンは電位依存性Na+チャネルの発現を高めます。さらに、末梢神経の末端ではサブスタンスPやCGRPが放出され、それは血管拡張や血漿漏出をもたらします。

中枢では、脊髄後角において一次求心性ニューロンの終末と二次ニューロンとの間でシナプス増強が起こります。シナプス前部ではCa2+が流入することで様々な神経伝達物質が放出されますが、グルタミン酸とサブスタンスPが興奮性の伝達物質として主に働き、二次ニューロンにCa2+の流入を増加させます。様々なシグナル伝達によりシナプス後ニューロンの興奮が強まり、遺伝子発現の長期に渡る変化がもたらされ、シナプス後部にAMPA受容体が増えていきます。細胞外、多くはアストロサイトやミクログリアから放出された炎症メディエーターがこの機序を加速させてしまいます。ニューロンではないこれらのグリア細胞が、疼痛の慢性化にとっても大きな役割を担っているとされます(Anesthesiology. 2018 Aug;129(2):343–366.  Science. 2016 Nov 4; 354(6312): 572–577.)。中でも、活性化したアストロサイトから放出されるATPや炎症性サイトカインがミクログリアの活性化に、ミクログリアから放出される炎症性サイトカインがアストロサイトの活性化にそれぞれ一役買っており、グリアとニューロンのみならずグリアとグリアの相互作用も指摘されています(Pain. 2013 Dec;154 Suppl 1(0 1):S10–S28.)。