豊橋にある精神科の可知記念病院です。本日のブログは医局が担当します。

慢性陣痛について:その3

前回は、痛覚と内受容性感覚について述べました。今回は慢性疼痛の種類について。

急性疼痛から慢性疼痛に至る明確な閾値はないのですが、急性疼痛が治癒に至るであろうと予想される期間、これがICD-11では3ヶ月とされており、それを超えても続く痛みが慢性疼痛である、として一般的には受け入れられています。慢性疼痛は生物学的のみならず様々なファクターが絡んでいることが知られており、例えば痛みの解釈やコーピングスタイル、以前の痛みの経験、重要な他者が痛みにどう対応してきたか、痛みへの恐怖、不安の大きさなどなど。特に“以前の痛みの経験”や“重要な他者が痛みにどう対応してきたか”は心的外傷としての側面を有しており、そこへの配慮は忘れてはなりません。

そして、慢性疼痛は侵害受容性疼痛nociceptive pain、神経障害性疼痛neuropathic pain、痛覚変調性疼痛nociplastic painの3つに分類され、それぞれ特徴があるのですが、新しく提案された痛覚変調性疼痛は、IASPによって“pain that arises from altered nociception despite no clear evidence of actual or threatened tissue damage causing the activation of peripheral nociceptors or evidence for disease or lesion of the somatosensory system causing the pain”と定義されています。明らかな組織損傷が確認されずとも侵害受容の変調によって生じる疼痛、というのがポイント。とは言え、3種類あるものの典型的なものを除いては明確に「これはこれ」と区分け出来ず、連続体にあることが指摘されています(Pain. 2016 Jul;157(7):1382–1386.)。中には、プライマリケアや整形外科では慢性疼痛の50%以上が分類できないmixed painであるという報告もあるのです(Clin J Pain. 2017;33:1100–1108.)。特に痛覚変調性疼痛は疼痛に関連する末梢と中枢の感覚経路に変調を来たすことで疼痛への感度が上昇してしまっており、慢性疼痛は多かれ少なかれこの要素を含んでいます。