豊橋にある精神科の可知記念病院です。本日のブログは医局が担当します。
慢性疼痛について:その1
痛みを抱える人はとても多くいます。急性疼痛のみならず、何ヶ月何年経っても痛みが良くならない、慢性疼痛も実に。イギリスの研究では、慢性疼痛の有病率は43.5%であり、中等度から重度の痛みは10.4– 14.3%にも昇るそうです(BMJ Open. 2016;6:e010364)。かく言う私も緊張性頭痛に悩まされておりまして…。“痛み”は「An unpleasant sensory and emotional experience associated with, or resembling that associated with, actual or potential tissue damage」と定義されており(Pain. 2020 Sep 1;161(9):1976–1982.)、これからも分かるのは、痛みは明確な組織損傷がなくとも生じうるということ(線維筋痛症が好例)、かつ、痛みは単なる感覚ではなく感情をも巻き込むような、Craig(クレイグ)の定義する内受容感覚であるとも言えること(『我感ずる、ゆえに我あり』)。Craigは、内受容感覚とは身体の生理学的状態を伝える感覚であり、それには皮膚の温痛覚も含まれる、としています。その内受容感覚には島皮質と腕傍核、そして前帯状皮質と中脳水道周囲灰白質とが大きく関与しています。前者は体内感覚の立ち上がりに、後者はその感覚に基づく運動(自律神経系の反応や行動そのものも含む)の発生にそれぞれ携わっており、特に島皮質はその後部に感覚情報が入り、中部で統合され“感覚”として成立します。さらに、島皮質前部は前帯状皮質を始めとして様々な部位との相互連絡があり、“私”という主体性の成立に大きな役割を果たしていると言われています。島皮質前部の働きによって、感覚sensationが“私”の主観的な感じfeelingになる、と言えばざっくりしすぎかもしれませんが。