豊橋市にある精神科の可知記念病院です。
今回のblogは医局の担当です。

高齢者の睡眠障害

高齢化率の上昇に伴って、日本では2025年時点で700万人の高齢者 (65歳以上)が認知症を発症すると予想されています。もともと高齢者は睡眠リズムが乱れやすいことが知られており、特に認知症患者ではその傾向がより強いとされています。今回は認知症における睡眠障害の特徴と対応について、簡単にまとめてみました。

認知症の現状と課題

厚生労働省は2015年に認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて「新オレンジプラン」を提唱しました。また2017年には効果的な施策の実行に向けて、数値目標などを示す改訂を行いました。このプランは「共生と予防」をコンセプトに掲げており、団塊の世代が75歳を迎える2025年までを期間として定めています。認知症にはBPSD(認知症の行動・心理症状)への対応など、社会全体で包括的に取り組むべき多くの課題があります。中でも睡眠障害は昼夜逆転や夜間徘徊といった介護上の問題にも繋がる重要な課題の1つといえます。

認知症患者における睡眠の問題点

高齢者は壮年者に比べて睡眠リズムが乱れやすい上、以下のような特徴が見られます。これらの特徴は認知症高齢者ではより強く現れます。健康高齢者よりも入眠時間、中途覚醒時間が長く、中途覚醒回数が多い一方で、総睡眠時間、ノンレム睡眠時間は短いことが報告されています。

1.総睡眠時間が短い
2.入眠が困難かつ早期覚醒の割合が多く、中途覚醒も少なくない
3.深睡眠時間の割合が少なく、全体的に浅睡眠であるため物音や尿意で目覚めやすい
4.熟眠感が得られず、睡眠に対する満足度が低い

高齢者の睡眠障害の原因

高齢者の睡眠障害は、健康であっても認知症であっても主に以下の原因により引き起こされます。

1.日中の身体および精神活動の低下(退職や引退、家庭内での役割が減少)
2.昼寝時間の増加(夜間の睡眼障害の結果)
3.身体疾患の影響(脳血管障害の後遺症など)
4.処方薬およびカフェインやニコチン摂取(降圧薬、コーヒーなど)
5.夜間頻尿(加齢に伴う膀胱機能の低下)
6.環境(騒音や生活リズムが異なる者との同居など)
7.精神疾患(うつ病、不安症など)

睡眠障害への対処法

認知症高齢者の睡眠障害の背景には概日リズムの乱れがある場合が多いといえます。したがって、まず取り組むべき対処法は生活リズムの改善です。日中は起床して身体活動に取り組み、できるだけ薬物療法には頼らないことが大切です。それでも改善しない場合に上記原因に対応した対処法を紹介します。

1.日中のレクリエーション(日光を浴びながらの身体活動など)
2.昼寝は30分以内(午後3時くらいまでを目安)
3.身体疾患の治療(特に疼痛)
4.多剤大量処方の整理
5.就寝直前の水分摂取を控える。
6.環境の調整(静かな寝室へ変更など)
7.精神科の専門医による治療