豊橋にある精神科の可知記念病院です。
本日のブログは医局が担当します。

抗うつ薬のマイナーな副作用:activation syndromeと自殺リスク

頻度は大きくないものの有名な副作用であるactivation syndromeと自殺リスクですが、その判断は実に難しいと言わざるを得ません。内側前頭前皮質のセロトニン濃度は、上昇しても低下しても衝動性が高まるということが知られています(Front Integr Neurosci. 2013 Apr 19;7:25.)。どんな神経伝達物質も“ほどほど”が大事。それを考えると、大きい開始用量や早い/大きい増量幅はその部位のセロトニン濃度を急激に高めてしまい、ちょっと悪さをしそうだぞ…という気がしないでもありません。特に若い人は脳内ネットワークも発達途上なので、外部からの刺激(抗うつ薬によるセロトニン増加)で大きく変化してしまうのかもしれませんね。現に、若年者を対象としたDB-RCTのメタ解析で自殺リスクが指摘されており(Front Psychiatry. 2020 Sep 2;11:717.)、さらには製薬会社から資金提供のある研究では出版バイアスが強く、抗うつ薬による自殺リスクが過小評価される可能性が指摘されており、物議を醸しています(J Epidemiol Community Health. 2021 Mar 8;jech-2020-214611.)。しかしながら、スウェーデンで約50万人を対象とした観察研究では、年齢を問わずSSRIが自殺リスクをむしろ軽減するという結果が報告されました(Neuropsychopharmacology. 2022 Mar;47(4):817–823.)。その中では、SSRI開始30日前が最大のリスクであり、長期の治療によって低下していく(ただし1年間はそれなりに続く)ことが示されたのです。よって、自殺リスクについては断言できない、ただし若年者では高めるかもしれないというのが現段階で導き出せる回答かと。いずれにせよ小さい開始用量として、待てるのであれば増量も慎重にするのが安全なのだと思います。なお、抗うつ薬による躁転については、ミトコンドリアの機能を高める抗うつ薬で認められやすいのかもしれません。(図)ミトコンドリアはETC(Electron Transport Chain)によってATPを産生するのですが、その働きを強める抗うつ薬の服用と躁転とは関連性があるようです(OR=2.21)。双極症はミトコンドリアの機能障害なのではないかとも言われているので、納得してしまいそう。