豊橋にある精神科の可知記念病院です。
本日のブログは医局が担当します。

抗うつ薬のマイナーな副作用:運動障害

抗うつ薬には様々な副作用がありますが、見落とされがちなのが運動障害。アカシジア、歯ぎしり、ジストニア、ミオクローヌス、パーキンソニズム、レストレスレッグス症候群、遅発性ジスキネジア、チック、振戦などなど…(BMC Psychiatry. 2020 Jun 16;20(1):308.)。錐体外路症状はD2受容体遮断薬の専売特許と思いがちですが、決してそうではありません。歯ぎしりは特に夜中に多く認められる印象ではあります。この中のアカシジアの機序は明確に分かっていませんが、D2受容体遮断薬によるものは扁桃体や腹側線条体におけるノルアドレナリン作動性ニューロンの過活動があるようです(Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2021 Jan;25(14):4746-4756.)。D2受容体遮断薬は腹側線条体の活動を抑えにかかりますが、それへの代償として青斑核からのノルアドレナリン作動性ニューロンの投射が強まります。すると、腹側線条体の内部で活動のミスマッチが生じ(具体的には側坐核のshell>core)、それがアカシジアにつながるそうです。腹側線条体は腹側被蓋野からドパミン作動性ニューロンの投射を受け、そしてGABA作動性ニューロンをつないで皮質や辺縁系に届きます。それが目的指向性行動の端緒となるのですが、アカシジアで目的が定まらず行動が落ち着かないのは、その部分が影響を受けているのかもしれません。また、腹側被蓋野や黒質は縫線核の背部から5-HT作動性ニューロンによる抑制を受けています。そのため、そこから線条体に伸びるドパミン作動性ニューロンにある5-HT2A受容体や5-HT2C受容体を阻害することで、ドパミン放出が促進されます。ということは、SSRIやSNRIによってその部位のセロトニンが多くなり5-HT2A受容体や5-HT2C受容体が刺激されると、ドパミン放出が抑えられ、結果的にD2受容体遮断薬と同様にアカシジアを起こしてしまうのです。以上から、アカシジアの治療にはβ受容体遮断薬やα1受容体遮断薬やα2A受容体刺激薬といったノルアドレナリン系を抑える薬剤、そしてミルタザピンやトラゾドンなど5-HT2受容体を阻害する薬剤が用いられます。ただし、ミルタザピンは低用量(~15 mg/day)であればアカシジアの治療に用いられますが、30 mg/dayを超えてくるとノルアドレナリン作動性ニューロンにおけるα2自己受容体の阻害作用が強まってしまい、その結果としてノルアドレナリンの放出が高まり、腹側線条体の一部(側坐核のshell)の活動が高まり、かえってアカシジアにつながるというもっともらしい(?)説明があります。