豊橋市にある精神科の可知記念病院です。
今回のblogは医局の担当です。

人間の脳はここ40年で大きくなっている

この度アメリカから、1930年代生まれと1970年代生まれの人を比較すると、大脳の体積や表面積が増加しているとの論文が発表されたので紹介したいと思います。
https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/fullarticle/2816798

この研究では1930年から1970年までの出生年代の3226人に施行した磁気共鳴画像(MRI)を解析しています。1706人が女性(53%)、1520人が男性(47%)でした。1930年代の出生年代と1970年代の出生年代を比較すると、頭蓋内体積(ICV)は6.6%増加、白質体積は7.7%増加、海馬体積は5.7%増加、皮質表面積は14.9%増加していました。

脳の成長は胎内で始まり、幼少期を通じて増加し、成人早期に最大のサイズに達します。20世紀を通じて世界の多くの国々でIQが向上していること(フリン効果)が知られており、脳の体積や表面積の増加が認知機能に寄与している可能性があります。

脳が大きくなっている原因の一つとして栄養状態の改善が挙げられます。その中でも特に産前・産後の栄養状態の改善の影響が大きいとされています。ここ100年で先進国における平均的な成人の身長は、10年あたり1センチメートル以上伸びており、脳のサイズの増加とある程度相関しているようです。100年の間には数世代しかなく、自然淘汰の時間は非常に限られており、遺伝的進化の影響は少ないといえます。

また若年期の感染症が脳の発達に影響していると主張する人もいます。また、幼年時の感染症の影響で成人期の脳の解剖学的なサイズにも影響が現れている可能性があります。米国の複数の州を対象とした研究で、感染症の有病率が高い州では平均IQが低いことが報告されています。メキシコでは世代ごとのマラリア感染率と平均IQは逆相関していました。さらに急性のマラリア感染の前後で認知機能を比較した研究では、回復後も学校の成績と認知能力が大きく損なわれていることが示されていました。

先進国ではここ数十年で認知症の発症率が低下していると報告されています。これまでは教育環境の改善や生活習慣病の管理の進歩などによって認知症発症のリスクが下がっているとされてきました。しかし、世代が下るにつれて脳のサイズが大きくなっているとするならば、脳の予備能の増加が認知症の発症予防に関係しているのかもしれません