今回のブログは医局が担当いたします。

他の学派による統合失調症の理解

ウェルニッケ学派

統合失調症の理解について、ハイデルベルク学派とは異なる考えを持っていた人たちももちろんおり、大きな流れはふたつ。ひとつはウェルニッケ、クライスト、そしてレオンハルトの“ウェルニッケ学派”です。彼らは、精神分裂病と躁うつ病という、大きく2つに分類する考え方に反対を示しました。ウェルニッケはクレペリンの教科書第8版が出る前に事故で亡くなってしまったのですが、クレペリンの分類とは全く異なる方法で精神医学に向かいました。その特徴は“脳に求めよ”と言えるでしょう。脳内のネットワークがどこで障害されるかによって出現する基本的な症状が異なり、そしてその症状に心理的な加工がなされて、臨床的な病像が認められると考えたのです。それを引き継いだクライストは、精神分裂病と躁うつ病との境界領域に独立した疾患を探そうとしました。また、脳幹を重要視し、精神障害を皮質性と脳幹性に分類しました。レオンハルトは1957年の『内因性精神病の分類』で、精神分裂病と躁うつ病の2つどころではない細かな分類を行ないましたが、細かすぎて受け入れられないというパターンに…。しかし、精神分裂病を慢性的に抱えた患者さんの中で、彼の分類する“systematic catatonias”というサブグループには抗精神病薬が効かず、“slight paranoid defects”というサブグループにはよく効いたという報告があります(Acta Psychiatr Scand Suppl. 1959;34(136):388-93.)。この辺りは、ちょっと興味深いですね。この学派のクライストとレオンハルトは“非定型精神病”の病像の明確化にも寄与しています。非定型精神病は、クレペリンの“早発性痴呆”と“躁うつ病”の二分法になかなかそぐわないもの。マニャンが1886年に記した“急性妄想性錯乱”がその典型例だとされており、後のアンリ・エーの意識野の解体における解体深度はまさにそれを示しているとも言えるでしょう。

チュービンゲン学派

もうひとつの流れは、クレッチマーを代表とする“チュービンゲン学派”というもの。1940年代後半~1970年代まで活躍したクレッチマーは、“患者さんの病像をありのままに厳密に記述していく”というハイデルベルク学派の(一見すると冷徹な)考えとは異なり、患者さんの性格、体験、環境を考慮して妄想を理解していこうという姿勢を持っていました。一人の人間が精神症状を認めるようになるその過程を多元的に探っていこう、ということですね。現在、統合失調症に対して認知行動療法などのサイコセラピーが行なわれており、それはクレッチマーが土台になっている、と言えるかもしれません。認知行動療法は再燃予防のエビデンスがなかなか得られずに苦戦していますが(Cochrane Database Syst Rev. 2018 Dec 20;12(12):CD007964.)、こういう試みをして突破口を見つけていこうとするのはとても大事です。