豊橋市の精神科の可知記念病院です。
今回のblogは医局の担当です。
ペット飼育と認知症発症リスク
以前から犬などのペットの飼育者のうち、運動習慣を持つ高齢者は負の健康事象が発生するリスクが低いことが知られていましたが、先日、東京都健康長寿医療センターの研究チームによって、ペット飼育と認知症発症リスクについての調査結果が科学誌に発表されました。今回はその論文の概要と個人的な感想について書いてみます。
[研究の概要]
今回の研究では2016年における東京都の11,194名の調査データが使用されました。研究対象者の平均年齢は74.2歳、女性の割合は51.5%でした。研究対象集団における犬の飼育率は8.6%、猫の飼育率は6.3%で、2020年までの介護保険情報に基づいた要介護認知症の新規発症率は5.0%でした。犬非飼育者に対する飼育群の認知症発症オッズ比は0.60、猫非飼育者に対する飼育群のオッズ比は0.98でした。つまり犬の飼育者では、非飼育者に比べて認知症が発症するリスクが40%低いことになります。一方で猫の飼育者と非飼育者との間には、認知症の発症リスクの差はみられませんでした。犬の飼育と他の生活習慣の組み合わせで考えると、犬飼育かつ運動習慣ありの群、犬飼育かつ社会的孤立なしの群で認知症のリスクがさらに低いことが明らかになりました。
[感想]
飼うペットが犬か猫かの違いで認知症のリスクが変わるというセンセーショナルな論文です。日本国内で行われた前向き研究としてはかなり大規模であり、ペットとして犬を飼うことと認知症の発生リスクが逆相関の関係にあることは間違いありません。しかし無作為化比較試験ではない(現実的にペットをランダムに割り当てることはできない)ため、因果関係がある(犬を飼うことで認知症になりにくくなる)とは言い切れません。あと気になったのは認知症が発症しているかどうかを介護保険の認定で判断しているということです。要介護認定はコンピュータによる一次判定と、それを原案として保健医療福祉の学識経験者が行う二次判定の二段階で行います。その際かかりつけ医による主治医意見書が参考にされますが、これは認知機能そのものよりもADLに重きが置かれた内容となっています。つまり猫とは異なり定期的な散歩が必要な犬では、ADLが保たれることで要介護認定が出にくいのかもしれません。また、以前から定期的な運動が認知症のリスクを下げるという研究はあり、運動を促す手段であれば、ペットとして犬を飼うこと以外でも認知症のリスクが下がる可能性があります。