豊橋市の精神科の可知記念病院です。
本日のブログは医局が担当いたします。
精神病という言葉:補遺
前回は、精神病Psychosis(現在は精神症という用語)について、Schneiderの考えと現代の考えとの違いについて述べました。今回はちょっとした記載です。
“精神病”という言葉が症状面を指し、かつ種々の精神障害に認められるというのが現代の解釈です。さらに、“精神病体験 psychotic experiences”が一般人口にも認められることがあるという研究が出てきています(Psychol Med. 2013 Jun;43(6):1133–1149. JAMA Psychiatry. 2015 Jul;72(7):697–705.)。精神病症状自体は統合失調症や双極症などに限定されるものではなく、正常範囲との連続体になっていることが明らかになってきました(ほとんどは一過性ですが、一部が繰り返し持続性に進展)。こういった研究を受けて、DSMは連続的なとらえ方をしていくことを示唆しています。
また、精神分析の界隈では、“精神病”は神経症との対比として用いられています。それは機能障害の重症度であり、精神分析の影響を強く受けていたDSM-Ⅱでは「生活上の通常の要請を満たす能力に著しい支障を生じるほど精神機能が障害されている場合、患者はpsychoticと記述される」としていました。大雑把に言うと、軽症は神経症、重症は精神病、であったのです。
精神病という言葉ひとつをとっても、人によって指す意味は異なります。昔はその傾向が今よりもずっと強く、DSMはその統一を図ろうとしました。他にもDSMは病因についてほぼ不問にする傾向があり、それらについては賛否がありますが、まずは“ある言葉が相手と同じ意味を示す”という基本的な部分に持っていこうとしたのは重要だったのではないかと思われます。