豊橋市の精神科の可知記念病院です。
今回のblogは医局の担当です。
アルツハイマー型認知症の臨床経過
アルツハイマー型認知症の進行度別の症状を簡単にまとめてみました。アルツハイマー型認知症とは脳の神経細胞が通常よりも早く減少し、認知機能が徐々に低下していく病気です。アルツハイマー型認知症の症状は前駆期、初期、中期、後期と段階ごとに異なります。
・前駆期
記憶障害が顕在化する前の前駆期ではIADLの低下を認めることがあります。IADLとはInstrumental Activities of Daily Livingの略で手段的日常生活動作とも呼ばれます。ADL(日常生活動作)とは異なり、身体を動かす機能だけではなく、判断力や理解力が関わる日常生活の応用的な動作を指し、買い物や電話応対、食事の準備、家計の管理、自動車の運転などが含まれます。例えば料理のレパートリーが少なくなり、手の込んだものを避け、単純なものの繰り返しになることで周囲が気づくことがあります。また自動車の運転が以前より怖くなったり、危険を感じることが増えたりします。記憶障害は経度で本人が自覚していないことも多く、家族など周囲の評価が重要となります。本人は認知症専門外来を受診することに抵抗を感じることもあり、身体症状に焦点を当てるなど工夫が必要になります。
・初期
この段階では記憶、特に記銘力の障害が明らかになります。日常生活においてはATMでの金銭の出し入れが困難になったり、約束を忘れたり、すでにあるものをまた買ってきたりします。視空間認知の障害も顕在化し、旅先などで道に迷って旅館の自室に戻れないことがあります。通帳などの貴重品を自分でしまったことを忘れて「盗まれた」と猜疑心を抱く(物盗られ妄想)ようになるとトラブルになります。頭痛、根気のなさ、疲れやすさ、不眠など不定愁訴を合併することも多いです。
・中期
記憶障害は進行しますが、古い記憶はまだ保たれます。日常生活では衣服のボタンの掛け違い、裏表の間違い、季節や場所に合わない装いを認めます(着衣失行)。地誌的能力の障害も進行し、自宅の近くでも迷子になります(徘徊)。テレビではドラマや映画などのストーリーを追うことが困難となり、歌番組や相撲などを好むようになります。買い物ではお金の計算ができず、お札ばかりだして、小銭が貯まっていきます。物盗られ妄想などの被害妄想に基づいて暴力や暴言などBPSD(認知症の行動と心理症状)を認めると、専門医療機関への入院が必要となる場合もあります。
・後期
著明な認知機能の低下のみならず身体機能も低下する段階です。自発性が著しく低下し、臥床がちになります。誤嚥性肺炎や転倒による大腿骨頸部骨折などの身体合併症を契機に寝たきりになることがあります。昼夜逆転などの睡眠覚醒リズムの乱れや、便こねなどの不潔行為もしばしば問題となります。