豊橋市の精神科の可知記念病院です。
本日のブログは医局が担当いたします。
フラッシュバックへの神田橋処方
フラッシュバックの薬剤治療に、神田橋処方という、精神科医であれば一度は聞いたことのあるものがあります。神田橋條治先生が発見したためにその名で呼ばれるのですが、漢方薬の四物湯と桂枝加芍薬湯の組み合わせ。なぜこれが効くのかは分かっていませんが、体感的に3~5割ほどで有効という印象です。
四物湯は補血薬ばかりで構成されているので胃に障りやすく、服用しづらい時は四物湯の派生である十全大補湯に変更します。桂枝加芍薬湯に関しては、悪夢や不安など強ければ桂枝加竜骨牡蛎湯に、痩せていて感覚が過敏であれば小建中湯に変更することがあります。私自身は、精神症状で疲弊しているような患者さんに対しては四物湯を派生の人参養栄湯に変更する場合もあります。このようにいくつか派生処方があるので、四物湯と桂枝加芍薬湯の組み合わせを純法、派生の組み合わせを変法、といつの間にか呼ばれるようになりました。
基本的にはそれぞれ2包/dayですが、小建中湯は4包/dayにしておきます。ただ、漢方薬は粉(細粒/顆粒)であることが多く、飲むことに難渋してしまう場合も。しかし、純法である四物湯と桂枝加芍薬湯はいずれも錠剤が販売されています。粉1包が6錠換算なので、治療の標準用量ならそれぞれ12錠という、結構な数になってしまいますが…。
この治療の対象であるフラッシュバックは、PTSDに認められるものに限らず、日常生活の傷つきにおけるフラッシュバックも含めています。パワハラ上司に何時間にも渡って怒られ、それ以来スーツ姿の男性を見るたびに上司に怒られる場面が勝手に再生されてしまう、など。広く使える処方なので、覚えておくと良いかもしれません。
なお、PTSDに対して柴胡桂枝乾姜湯の有効性を示した報告があり、それに限らず大柴胡湯や柴胡加竜骨牡蛎湯など、いわゆる“柴胡剤”が効くことも稀ならずあります。神田橋処方だけではない、というのは治療が手狭にならずに済みますね。