豊橋市の精神科の可知記念病院です。
今回のblogは医局の担当です。

認知症に関するエビデンス

高齢社会の日本において認知症患者は増え続けており、認知症の治療や予防に関して、世間の関心が高まっています。しかし、真偽不明の情報がインターネットなどに氾濫しており、困惑している方も多いのではないかと思います。今回は認知症に関するエビデンスについて「認知症疾患治療ガイドライン2017」よりいくつか紹介したいと思います。

エビデンスレベルはAからDまで分類され、推奨グレードは1から2まで分類されます。エビデンスレベルと推奨グレードの組み合わせにより、「1A」=強い推奨、強い根拠から「2D」=弱い推奨、とても弱い根拠まで表現されます。

アルツハイマー型認知症の薬物療法では、コリンエステラーゼ阻害薬であるドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンの3種類と、NMDA受容体拮抗薬のメマンチンが用いられています。いずれも有効性を示す科学的根拠があり、使用するように勧められます。=1A

多くの観察研究により、運動は認知症の発症率の低下と関連しているとの報告が上がっています。また認知症を発症していない高齢者や軽度認知障害(MCI)を有する高齢者に対する介入試験では認知機能低下を抑制したという報告があります。したがって日常生活に運動を積極的に取り入れることが推奨されます。=1B

高血圧は認知症の危険因子であり治療すべきですが、大規模研究によると降圧療法の認知症予防効果は現在のところ明確ではありません。=2C

食事や栄養に関しては、高カロリー食や低蛋白食および低脂肪食は認知症のリスクを高める傾向にあるとの報告があります。しかし、個々の栄養素が認知症のリスクと関連があるかについては確定的な結果は得られていません。=2C

非薬物療法では、認知刺激や運動療法は認知症の認知機能障害に対する効果があるとされています。また、音楽療法は行動・心理症状(BPSD)に対する効果がある可能性があります。=2C

「認知症疾患治療ガイドライン2017」以外にも認知症予ターゲットとした診療ガイドラインがあります。薬物治験では厳密なRCTを行うことが要求されるため全体に評価が高い傾向があります。一方で非薬物療法や認知症予防については長期間の前向き研究を行うことが難しい場合が多く、評価が低くなることが多いです。ただし運動療法については比較的高い評価が得られています。認知症の非薬物療法や予防の現時点での評価は必ずしもその重要性を否定するものではなく、むしろ新たな研究を行う価値のある領域ともいえます。