豊橋市の精神科の可知記念病院です。
今回のblogは医局の担当です。
複雑性PTSDとは?
今回は最近注目されている複雑性PTSDという概念について簡単に紹介したいと思います。
・複雑性PTSDとは
複雑性PTSDとは、組織的暴力、家庭内暴力や児童虐待など長期反復的なトラウマ体験の後にしばしば見られる、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の一種です。複雑性PTSDでは、通常のPTSDの症状(フラッシュバックや悪夢、不安焦燥、過緊張など)に加えて、自分の価値観や感情のコントロール、対人関係などにも困難が生じます。これらの症状は、原因となった出来事から何年も経ってから現れることもあります。
・複雑性PTSDの原因
複雑性PTSDの原因は、長期反復的なトラウマ体験です。特に、幼少期に親や保護者から虐待やネグレクトを受けた場合や、人質や奴隷として拘束された場合など、自分を守ってくれるはずの人間から裏切られたり、逃げ場がなかったりする場合には、より深刻になる可能性があります。
・複雑性PTSDの症状
複雑性PTSDは、トラウマ体験が自身のアイデンティティや対人関係に大きな影響を与えるため、自分の感情や衝動をコントロールできなくなったり、自分や他人を信頼できなくなったりします。また、トラウマ体験が自分の記憶や現実感に混乱をもたらすため、自分が自分ではないように感じたり、現実から切り離されたりするように感じることがあります。
・複雑性PTSDの治療法
複雑性PTSDの治療には、気分の落ち込みや不安などの精神症状に焦点を当てた薬物療法と、トラウマ体験に焦点を当てた心理療法が有効と考えられています。
薬物療法では抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬などが用いられます。これらの薬物は一時的な症状の軽減や安眠には役立ちますが、複雑性PTSDそのものに対しては効果が不十分なことが多いため、あくまで補助的な治療として利用されます。
心理療法の種類としては、「持続曝露療法 (Prolonged Exposure; PE) 」や「認知処理療法 (Cognitive Processing Therapy; CPT) 」、「眼球運動による脱感作と再処理法 (Eye Movement Desensitization and Reprocessing; EMDR) 」などがあります。
・持続曝露療法 (PE)
この療法では、トラウマに関連する刺激に段階的に触れることで、トラウマ体験に対する恐怖や不快感を減らすことを目指します。そうすることで、刺激に対する過剰な回避行動が減り、現実の安全性を確認できるようになります。また、自分の記憶や感情を整理することで、トラウマ体験が自身の責任ではないことを理解することに役立ちます。
・認知処理療法 (CPT)
この療法では、トラウマ体験が自分の信念や価値観にどのような影響を与えたかを考えることで、トラウマ体験に対する認知的な歪みや不適応な思考を修正することを目指します。こうすることで、偏った自分の感情や行動の原因が明らかになり、自らの力で変えるための動機づけにつながります。
・眼球運動による脱感作と再処理法 (EMDR)
この療法では、トラウマ体験を思い出しながら、目の動きや音などの外部刺激に注意を向けることで、トラウマ体験に対する感情的な反応や身体的な反応を和らげることを目指します。トラウマ体験を思い出しながら外部刺激に注意を向けることは、トラウマ体験の記憶や感情が適切に処理されることを促進し、トラウマ体験が現在の自分に影響しないようにすることに役立ちます。