豊橋市の精神科の可知記念病院です。
本日のブログは医局が担当いたします。
サル痘からM痘へ
一時期話題になったサル痘という感染症。WHOがM痘という名称に変更しました。そのM痘ですが、誤解が広まらないように述べておきたいことがあります。
M痘は、もともとアフリカでは年に数千人が感染する病気です。ただ、2022年に先進国でやや広まりを見せているものは、典型的な経過をたどらないこともあるようです。例えば、発熱やリンパ節腫脹などの前駆症状が見られない場合があること、病変が局所(会陰部、肛門周囲や口腔など)に集中しており、全身性の発疹が見られない場合があること、異なる段階の皮疹が同時に見られる場合があること、など。リスクファクターを抑えておくことは大切で、渡航歴、性交渉歴、濃厚接触歴です。このうち渡航歴がないにもかかわらず発症した患者さんが出たということで、ニュースでも取り上げられましたね。英国の事例を見てみると、190例中
・86%がロンドン居住と都市部中心
・女性は2人だけでほぼ男性
・20~49歳が87%
現在は男性同士の性交渉を中心に広まっているようです。ここで冒頭の“誤解が広まらないように”というところになるのですが、これは決して同性愛者の病気ではない!ということ。偏見を持たないようにしてほしいのです。米国でAIDSが話題になった際も「これは同性愛者の病気だ」として、「AIDSになった=同性愛者」というレッテルが貼られてしまいました(同性愛自体が悪いと言っているわけではありません)。
大事なのは、濃厚接触歴であり、感染者と接触(同一環境)してさらに感染が広がっているという事実を知りましょう。もちろん、同性愛、特に男性同士の性交渉を中心にして広がっているというのも事実ですが、短絡的に「M痘になったからこの人は同性愛者なんだ」と結びつけてはいけません。
そしてこのM痘、もともとの健康状態や年齢にもよりますが、ほとんどは自然に治癒していきます。ただ、顔や身体に痕(皮疹の痕)が残るので、やはりかからないにこしたことはないですね。
では、なぜこのように変な流行の仕方をしてしまったのか。それは、天然痘ワクチンの接種終了が大きいのではないかと言われていますし、私自身もそう思っています。M痘には天然痘ワクチンが有効であり、その予防効果は85%とされています。天然痘自体はワクチンの接種が行き渡ったことで撲滅され、世界中でそのワクチン接種が役割を終え、日本では1976年に接種が終了しています。そのため、おおむね50歳以下はM痘に罹患しやすくなっており、先の英国の例も20~49歳が感染者の87%を占めていたのです。
厚生労働省は今後の流行に備え、治療薬そして天然痘ワクチンを、対象を限定していますが使用可能と発表しました。感染の動向には注意を払っておきましょう。