今回のblogは医局の担当です。

可知記念病院での認知症治療

可知記念病院では高齢者の精神医療に力を入れており、積極的に認知症患者を受け入れています。他の病院では、入院中の認知症患者にせん妄(一時的に混乱し落ち着かなくなること)が出現すると、24時間家族の付き添いを要求されるという話を時に耳にします。これは家族にとってはかなりの負担であり、就労されている方は介護離職まで至らなくても職場での立場が悪くなる場合もあるのではと思います。その点、可知記念病院では、落ち着かない患者でも入院時の付き添いは必要なく、ご家族の負担軽減に貢献できているのではと思っています。

当院に認知症治療病棟を設立してから約3年が経過し、臨床経験も蓄積されてきましたが、当院のような精神病院でどのように認知症の治療が行われるか想像できない方も多いのではと思います。昔の精神病院のイメージからもしかしたらご家族を受診させることに戸惑いを感じる方もいるかもしれません。そこで可知記念病院での認知症の治療の流れをこの場を借りて紹介したいと思います。

初診時はまず、精神保健福祉士などが予診として、ご本人やご家族に自宅での状況を伺います。その後の診察で必要に応じて頭部CTや血液検査、心理検査などを行い、認知症の進行程度や、どのタイプの認知症であるかの診断を行います。その結果、自宅療養が可能と判断すれば通院での治療となりますし、難しい場合は認知症治療病棟や精神科急性期治療病棟に入院となります。

入院後はまずは安全を確保したうえで行動を観察し、必要な医療を検討します。自宅では徘徊が問題となっている方も多いのですが、当院の病棟は廊下が広く「口」の字型で周回できる構造のため、行動制限は最小限にし、転倒に注意しながらむしろ自由に歩いてもらっています。また当院は土足禁止であり、掃除が行き届いているため、床に座り込んだりしても衛生的です。

食事の際は、歩行が困難な方でも全身状態が良ければ、ほぼ全員介助で車いすに移乗し、デイルームで食事を食べてもらっています。できるだけ他者の目がある状況で過ごし、生活リズムを整え、適度の運動を行うことで、自宅では落ち着かなかった方も次第に落ち着きを取り戻すことができます。

写真は音楽療法が行われている様子ですが、認知症治療病棟では他にも習字や絵画療法、運動療法、回想法など週4日のリハビリテーションプログラムが用意されています。

薬物療法としては認知症の進行を抑える薬や、情緒や気分を安定させる薬を副作用に注意しながら最小限に使用します。外来での治療と異なり、副作用が出た場合に速やかに薬剤調整を行うことができることも入院のメリットといえます。

今問題となっている精神症状や行動上の問題を改善した上で、退院を目指す場合は、精神保健福祉士や看護師とご家族が面談の上、退院に先立って要介護認定の申請を行うことが多いです。入院中に介護調査員に来院してもらい、要介護認定が出てから、自宅やサポート付き高齢者住宅などへの退院を検討します。ただし、ご本人の症状とご家族の希望を踏まえて、さらなる入院が必要と主治医が判断した場合は、継続して入院していただくことも可能ですし、最期まで当院で入院加療を受けることも可能です。

可知記念病院には9名の精神科専門医が在籍していますが、精神科専門医を取得するためには認知症の診断や治療にも精通している必要があります。また内科や外科などの精神科以外の診療科も充実しており、高齢者の様々な身体合併症にも対応することができます。「こころとからだ」の両面から質の高い医療を提供できるように心がけています。

加えて、当院は愛知県認知症疾患医療センター(入院応需)に指定されています。認知症疾患に関する鑑別診断や専門医療相談、身体合併症の対応など、認知症に関する悩みや心配事はぜひ当院にご相談ください。